53.新たな聖獣に襲われた(3)

「受け止めるぞ」


「ボスが危ない」


 しかしオレは、反射的に手首へ紐を絡めていた。しっかり巻きつけた紐が食い込んで痛い。振り落とされないよう掴んだ紐が、伸びて……ゆっくり千切れ始めた。暴れる赤龍の勢いと、オレの重さが原因か。下を見れば、受け止められる高さじゃない。


 ビル数階分の高さは眩暈がするほど高く感じた。


「……リアムぅ……」


 情けない声が口をついて出る。最期に呼ぶのが妻 (予定は未定)の名前って、いやなフラグだな……。そんなことを考える余裕はないのに、余計なことに意識が流れた。現実逃避の一種かも知れない。


 このまま落ちたら、ザクロだろうか。リアムが縋って泣けない死体になってしまう。オレにザクロのフラグ多すぎね? マジでザクロ危機ばっかりじゃん。


 みちっ、不吉な音がして手が軽くなった。紐が切れる音は聞こえなくて、ただ手首を圧迫する痛みが消えたことに気付く。手首に絡めた赤い紐をもったまま……オレは落ちた。成す術もなく、子供が空中から降ってくる。下の傭兵達はちゃんと避けてくれるといいが。


 なんて考えていたのは、最初だけでした。誰でもいい、オレの下敷きになって助けてくれ!


「うぎゃぁぁあああ!!」


『主殿っ!』


 叫んだヒジリが全力で走る。助けに来てくれるのか? この黒豹もイケメンすぎる。空中を走る黒豹が上から近づいてきて、地上へ背中を向けて落下するオレの腕を噛んだ。ぐっと牙が食い込み、激痛と同時に嫌な音が響いた。


「いでぇ!!」


 ぼきって変な音がした。いま絶対に骨折れたぞ! ふざけんな、他の助け方はなかったのか!? 文句を心の中で叫んだオレだが、噛まれた右腕を中心にぶら下がった足に何かが触れる。


「キヨっ! 生きてるか?」


「うわぁ……」


「ボスの腕が変な角度に曲がってるぞ」


 様々な声と同時に、足に触れていたのが誰かの手だと気付いた。そっと離したヒジリの支えがなくなったオレは、下で待ち受ける傭兵に受け止められる。


「治癒できる奴は?」


「おれがやる!」


 ジークムンドは背を向けてまだ銃撃戦を繰り広げており、陰になった場所に駆けつけたサシャが大急ぎで治癒魔法を施す。じわりと右腕が温かくなり、ほっとしたところで意識が途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る