23.聖なる獣って偉いんだってよ(9)
「お前をこの世界につれてきて、俺に会わせてくれた」
蒼い瞳を真っ直ぐに覗き込んでしまった。凝視したまま止まったオレの目の前で、リアムがひらひら手を振る。足元で伏せていたヒジリが起き上がって右手を噛んだ。
「痛っ、痛いぞ…ヒジリ」
さっきと違って今度は歯が当たった。我に返って文句を言えば、大きく尻尾が左右に振られている。齧られた手を見ると涎塗れだが、牙は刺さらなかったらしい。
『他の聖獣はどう考えるか知らぬが、我は主殿との契約を誇りに思うぞ』
「うん、ありがと。でも噛まないで」
礼と文句を同時に告げながら、ヒジリの首筋をわしゃわしゃと乱暴になでた。気持ち良さそうなのが、ちょっと癪だ。髪をぐしゃぐしゃに乱された時の複雑な気分にしてやりたかったのに。
「聖獣殿について、だったな。この本を見ろ」
紅茶のカップを横によけて、詰まれた本から1冊を引き抜いたリアムが広げる。数ページ捲ると手を止めた。差し出された本を読もうとして、中央に置かれたケーキスタンドを避ける。すぐに侍女が片付けてくれたのを横目に、ヒジリが残念そうな唸り声をあげた。
「あとでな」
顎を撫でてやり、立ち上がって向かいの本を覗き込んだ。椅子の上によじ登ったのは、ちょっと身長が足りないからだ。身を乗り出したオレに、リアムが首をかしげた。
「回り込まねば本が逆さまだぞ?」
「……あ、そうか」
慌てて身を乗り出した格好を正してぐるりと回りこむ。隣で覗き込むが、目の端で揺れる黒髪にどきどきしてしまって、集中力はかなり散漫だった。
「聖獣は強大な魔力を秘めた世界の護り手だ。それぞれが気に入った地方に加護を与えていることが多い。そのため、聖獣がいる地域は繁栄する傾向が強いな」
「護り手って何するの?」
『世界の崩壊を防ぐ役目だ。人や魔獣が死んだ際に放出される魔力をそのまま放置すると、世界の境界が傷つく』
「死んだ人の魔力を吸収するのか」
『先日は大量に与えたりもした』
「へえ、誰に?」
『………主殿だが』
「……っ! オレ?」
リアムの髪がいい匂いするから、ぼんやり受け答えしてたら大変な言葉が聞こえてきた。オレに魔力を与えたのが聖獣だとすると、カミサマは? 希少価値がある天然記念物みたいな赤瞳の竜になるほどの魔力を、異世界人にくれちゃうのって迂闊だよな。
『ここ数年の戦で溜め込んだ魔力を、この世界に落ちる存在に与えるよう指示があった』
「指示……」
「誰から?」
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