23.聖なる獣って偉いんだってよ(8)

 ああ、疑問に疑問が返って来た。この世界に来てから、このパターンが非常に多い。うーんと唸って思い出した。こちらの世界で「宗教」の話や観念を聞いた記憶がないのだ。つい先頃もその疑問が過ぎったが、ここで聞いた方がいいだろう。


「カミサマってのは、万能の存在で世界を作った人――オレの世界では祈りの対象だった」


「祈りとは?」


 そこからか。確かに宗教がないとしたら、祈りと言う行為が理解できないのも仕方ない。哲学の自己証明みたく、ずっと答えが出ない質問のような気がした。ラッキョウの皮みたいにむいていったら、何も残らなかったみたいな感じだ。


 宗教家じゃないし、どう説明したら伝わるだろう。


「困ったときにお願いしたり、どうにもならないことを頼んだり、何かいいことがあったときに感謝する行為……かな」


 困った時の神頼みという単語が頭の中で踊っている。こういうときこそ、神様に助けて! と祈ったら、何とかしてくれないものか。


「つまり、侍従のようなものか」


「いや。だいぶ違う」


 即時否定。申し訳ないが、それはかなり違う。違うけど……オレの説明が悪いんだよな。確かに困ったときに頼る相手と考えれば、侍従や騎士が浮かぶ立場の人なんだから。


「心のより所が近いかも。オレの世界では『世界を作った人で、万能』なんだよ。だから無駄を承知で頼む行為を祈りと呼んでいて、もちろん答えてくれたり手を貸してくれることはないし、姿も見れない」


「無能だな。どうして存在するとわかるんだ?」


 すっぱりきっぱり『無能』だと断言されてしまった。確かに見えない、答えない、手を貸さない存在を崇める理由はわからない。オレのいた日本だと宗教の感覚はほとんどなかったし。正月は神社で初詣、鬼を祓う豆まきは寺、クリスマスはキリスト教で、ハロウィンはケルト人の儀式だっけ。


「………いると信じてるから?」


「信じると存在するのか」


「えっと……オレは信じてなかったけど、この世界に飛ばされる時に会ったんだ」


 禅問答になってきた。


 どうしよう、あまり深く聞かれても答えられない。というか、聖獣の説明を受けるはずじゃなかったっけ? 無理。オレみたいな学のない奴が、宗教の定義や神様の存在証明なんて出来ない。頭を抱えて唸るオレに、リアムは首を傾げた。


 どう説明しても納得させる自信がない。


「あのね、リアム。説明しきれないから聖獣について教えて」


 降参だと手のひらを上に向けて示せば、くすくす笑い出したリアムが黒髪を揺らして俯く。しばらく笑ったあと、目尻に浮かんだ涙を拭っていた。そこまで笑うなんて酷くね?


「わかった。カミサマについては終わりにしよう。しかし俺はカミサマとやらに感謝する必要があるな」


「どうして?」

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