23.聖なる獣って偉いんだってよ(7)

「猫やトカゲも?」


「ああ、それが聖獣だから」


 大きく首をかしげる。聖なる獣って書くくらいだから、おそらく何らかの特殊技能があると思ったが、まさか空を飛ぶのが必須項目だったとは予想外だ。


『驚くことではあるまい』


「聖獣殿、セイはこの世界の常識を知らぬ”異世界人”だ。何も知らないと思ったほうが間違いない」


「……ソウデスネ」


 赤子か幼児のような扱いを受けているが、確かにこの世界の常識はオレのいた前世界と違いすぎた。混乱している頭を一度真っ白にして、疑問点を口にする。


「ヒジリが飛ぶときって、どうやるの?」


 背中に翼でも生えてくるんだろうか。顎を乗せたままのヒジリの肩甲骨あたりを撫でてみる。特に翼が出てきそうな穴や切れ目はないが……。


『主殿、翼はないぞ』


「あ…うん」


『飛ぶより駆けるの方が表現が近いやもしれぬ』


「うん」


 頷きながら、すごく残念な想いが広がる。ばさっと背中の真ん中から翼が生えて、ペガサス的な外見になるのを期待したんだけど。がっかりしながら相槌を打っていると、むくりと起き上がったヒジリにぱくりと右手を食べられた。


「セイ!?」


「うん」


 まだ考え事をしていたため、ぬめぬめした感触に気付くのが遅れてしまった。齧られたわけじゃないので痛みはない。背を撫でる右手が豹の口の中に入っただけで――え!?


「ちょ、ヒジリ? 腹減ったならお菓子やるから」


 左手で焼き菓子の乗った皿を引き寄せて差し出せば、むっとした顔で離してくれた。ちなみに涎でびっしょりなのだが、舐めてくれる気はないらしい。収納魔法で取り出したタオルで拭いていると、焼き菓子を食べながらヒジリがぼやく。


『菓子が目当てではないぞ。主殿が聞いていないからだ』


「ソウデスネ」


 最近カタカナで返事するような事態に陥ること、多いな。夢中で菓子を頬張る姿からは、腹が減っていた獣にしか見えないんですが? 聖なる獣様よ。


『空を翔るのだから、その背で満足せよ』


 子供に言い聞かせる大人の口調は、しっかり上から目線だった。いや、たぶんヒジリのが年上だと思うからいいけどさ。


「だって、翼の間に跨ってみたかったんだもん」


 頬を膨らませて抗議してみたら、ヒジリは金瞳を大きく見開いた。そのあと思案するように伏せてしまう。怒らせたのだろうか。我が侭が過ぎると叱られるとか?


「セイ、聖獣殿をあまり困らせるものではない。普通は契約など受け入れてくれる存在ではないのだから」


「聖獣って、カミサマの使いなの?」


「カミサマという存在は何だ?」

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