185.戦場で必要なスキル(3)

 ビニール袋の底の三角を切り落とした形なので、ゆるゆると片側から流れ出る。


 この風景はあれだ!


「肉は『飲み物!』」


 ブラウとハモって、げらげら笑い出す。意味がわからない傭兵達は突っ込む気もない。いつものことと流してくれた。


「キヨ、串に刺すのか?」


「あ、頼む」


 レイルが率先して肉を串に刺す。ベンチを取り出したオレが座ると、隣にレイルが座った。残るベンチにも数人が腰掛け、当たり前のように肉を刺し始めた。手を刺すような間抜けはいないが、手際の悪さが気になった奥様が声をかける。


「ちょっと、代わりな! こうやって刺すんだよ」


 ぽっちゃりした奥さんがどかっとベンチに座り、傭兵から奪い取った串に肉を刺す。少し肉を捻りながら刺した様子に、一斉に傭兵達が真似し始めた。


「なんだ、あんたら占領しに来たのに飯作ってんのか」


 呆れ声に苦笑いをプラスする器用なリシャールに、串を渡した。


「ほい、食べたきゃ手伝え。働かざるもの食うべからず!」


 受け取った串を手の中でくるりと回し、リシャールが尖った先をオレに向ける。


「攻撃される武器や口実を捕虜に与えたら、こうなるのはわかってんだろ」


 口調が崩れているが、こっちが本性か。傭兵連中と似てるなと思いながら、オレは肩を竦めた。ちなみに右手に持った肉を左手の串に刺していく作業は止めない。


「刺してみれば? あんたも南の兵も皆殺しになるだけだよ」


「それでもボスを倒せば、残りは烏合の衆だぞ。傭兵に報酬払ってんのは、あんただろうし」


 傭兵は雇い主が死ねば契約終了だ。そう匂わせるが、傭兵達に殺気だった様子はない。ノア、包丁を投げナイフみたいに持たない! オカンはオレに何かされそうになれば戦う気らしい。しかしジャックは笑ってるし、サシャやライアンも肩を竦める程度だった。


 隣のレイルが先に口を開く。


「傭兵の雇い主はキヨだが、殺されても契約解除されない。それと、聖獣が黙ってないだろうな」


 唸りはしないものの、ヒジリが足元から爪を光らせていた。ブラウは風の刃を得意とするから、遠くからでも簡単に攻撃を届かせる。マロンは真後ろに控えてるし、コウコの炎があればこの街は秒殺で火の海だった。スノーはまだ戻ってないが、居たら氷を突き立てると思う。


 だが、この場で1番のチートはオレ自身だった。


「あのさ、レイル。聖獣や傭兵がいないと、オレが無能みたいに聞こえるじゃん?」


 くすくす笑うオレに、レイルは目を見開いてから大笑いした。


「そりゃ失礼した!」


 二つ名持ちの死神の実力は有名だから省いた。そう言われればオレも反論はない。実際突きつけられた串をもう少し近づけたら、結界で折れるのは確実だった。


「……手伝う」


 余裕のある周囲とオレを見て、何か納得したリシャールは手際良く串に肉を刺した。途中でネギ入りやピーマン入りを作ったら、後ろの傭兵からブーイングが起きたが、お前ら……ちゃんと野菜も食え!!

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