185.戦場で必要なスキル(2)

 知らない奴には、地面から兎が生えたように見える。


『なんとなくだけど、主が僕をディスってる気がする』


 イイ勘してるな、青猫。野菜を空に浮かせて風の刃でカットするブラウへ、親指を立てて肯定する。必要以上に野菜が細切れになった気もするが、スープの具なので問題なし。青いトマトも入れておいた。


「うぎゃああ!」


「なんだこれ」


「ああ、ご苦労さん。ヒジリ」


 労うオレの足元に大量の兎耳が並んでいる。地面に生えた兎耳を掴んで引っ張ると、ごっそり本体が抜けた。ニンジンの収穫に似た光景を繰り返すが、手伝おうと手を伸ばしたライアンに注意した。


「あ、抜けないよ」


 聖獣の影領域は、オレの影を起点としてる。つまり契約者以外は触れられない、ただの影だった。ライアンが引っ張っても外に出てる耳が千切れるだけ。子供のオレがひょいっと軽そうに抜いたので、手伝おうとしてくれたんだろう。


「兎の解体、お願い」


 これだけはスキルがあろうがやりたくない。人間の喉かき切っても平然としてるくせにおかしいけど、皮剥いだり肉を骨から削ぐ作業は苦手だった。


 手慣れた様子でノアが解体を始めると、隣でサシャも手伝い始める。ブラウは淡々と野菜をカットしていた。その間にジャックが鍋のお湯に野菜を均等に入れ始める。


「今日のスープはトマト味ね。塩加減は後で調整するから、トマト潰して入れておいて」


 ざっくりした指示だが、何度もオレと料理をした連中は「おう」と返事をしてトマトを叩き潰していく。青いからトマトスープは赤じゃなく青……と思うだろ? 違うんだな、火を通すと赤くなるんだ。つまり甲殻類と一緒。


 異世界らしい奇妙な状況だが、トマトスープが赤いのは口をつけるオレとしては助かる。違和感がないもんな。紫キャベツはいまだにドキッとするもん。


 大量の兎肉を前に、うーんと唸った。串焼きにするか、スープに入れるか。ただ、この肉を柔らかくするために黒酢に漬けるから、酸っぱくなるのが欠点だった。


「串焼きにしよう!」


 収納から取り出した黒酢を倍くらいに薄めて、空中に浮かせた兎肉へ塗す。イメージはビニール袋に入れた食材だ。揉んで裏返してまた揉む作業を繰り返し、手応えが柔らかくなったところで鍋が足りないことに気づいた。


「マロン、暇なら鍋作って!!」


『大きさと形はどうする? ご主人様』


「あのスープ鍋の形で、大きさは倍くらい」


 ジャックが巨大おたまでかき回す巨大鍋を見て、マロンが作った鍋に兎肉を流し込んだ。

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