234.ヒントはあちこちに(3)
黒髪で地味な感じの、どこにもいそうな子供。こうして単独で向かい合えば認識できるけど、人混みですれ違っても気づかないと思う。
『地味って、ひどいな』
僕は頭の中を読めるんだけどね。そう付け加えたカミサマだが、正直取り繕って頭を下げる気はない。勝手にトレードしたくせに。それなりに楽しんでるけど、死にそうな目に何度も遭遇した。オレの思うチートと違う。
「こう……魔法で戦う世界を想像してたわけだ、オレは」
『銃撃戦があるから君を選んだんだよ? 当然じゃない』
何を馬鹿なこと言ってるの。そう笑い飛ばしたカミサマの隣にどっかり座って寝転ぶ。青空はどこまでも高くて雲ひとつなかった。確かに現実感ない。
「ここにいる時間って、向こうは止まってるの?」
『君は止まるけど、周囲の時間は動いてるよ』
「はぁ??」
地を這うような脅迫系の声が出たが、それも仕方あるまい。なにそのしょぼい設定、突然オレがフリーズした形かよ。パソコンじゃあるまいし、あっちはパニックだろう。
「早く返してくれ」
『君が考えてた話を蒸し返さないならね。あれはこの世界の神に関わる出来事で、重要な機密なんだ』
「……でも話しちゃった」
途中までだが、仮定を聞かせてしまった。問い詰められたら答えてしまう自信がある。拷問されなくてもだ。
『君ってそういう子だったね。安心して、この話は消しておくから』
便利な能力だが、だったらどうしてオレを連れてきた? 一緒に記憶を消せばいいじゃないか。
『君はすでに向こうの世界の住人だよ。僕の管轄外で、こうして干渉するのも本来は違反行為だけど』
前置いた上で、カミサマは予想に違わぬ真実を教えてくれた。
『聖獣はあの世界の神が分裂したもの。あれは罰なんだ』
神々の争いだか競争だか、その辺の話は流して聞いた。長くなると体が死にそうだしね。カミサマも長く干渉するとバレるからと、手短にあらすじだけ話してくれた。
とにかく争って負けた神が癇癪起こして、他の神の領域を荒らした。その罰として、魂や器を5つに裂かれる。それが聖獣で、神としての能力は半分以上眠ってるらしい。覚醒するために必要なのが、コンプリートできる主――つまりオレを探してた。ようやく見つけたからひとつになるんだって。
正直、どうでもいいわ、うん。
「なんでオレだったんだ?」
『アニメ好きで引きこもりで、銃撃戦がある世界に耐え得る臆病者――僕があの神に頼まれたトレードの条件だよ』
それだけ言い残し、オレは芝の丘から弾き出された。いつも思うんだけど、なんで落下なの? 浮上でもいいじゃん。死因になったから、落下は嫌いなんだよ。
文句を言いながらオレは目を開いた。
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