234.ヒントはあちこちに(2)

「聖獣のいない自治領が飛び地として存在し、聖獣同士の力関係を無視して陣地とりが出来る。そう考えるとおかしくないか?」


 オレの疑問にようやくシフェルが口を挟んだ。ずっと考え込んでたのは立場があるから。迂闊なこと言えないもんな。そういう事情も考えられるようになったあたりは、オレも成長したと思う。


「黒豹の聖獣殿と皇帝陛下の契約は切れていません」


「うん」


「ですが聖獣殿は、中央の国を出ていた」


「そう」


 相槌を打ちながら、オレもお菓子を齧る。シフェルは前提条件を呟きながら、考えをまとめ始めた。


 聖獣の契約者が王族、王族を支えるのが貴族、そして国民だ。これはわかりやすい。だが王族がいなければ国土が失われるのはどうしてだ? オレが知る異世界物は、王族が死んだら交代するだけだ。それが魔王だったり英雄だったりするだけ。他国の侵略で国土を奪えるのに、聖獣がそこに関与しないのは不思議だった。


 たとえば、戦で勝って「ここまで欲しい」と花一匁みたいに要求したとしようか。負けた国が承諾しても、聖獣には無関係だ。聖獣が承諾しないのに土地の所有権が動くなら、聖獣がいなくても土地は消えないはず。


 オレの考えを例えると、聖獣は大家でアパートという国土を契約した王族という店子に貸していると思っていた。だけど、勝手に又貸ししたら契約違反じゃん。知らない人住まわせてもアウトだろ。ついでに店子が出てっても、アパートが消えたりはしない。それは大家の財産だからだ。


 こうやって整理するとおかしい。今の状況だと店子が消えたり死んだら、大家は建物をすべて壊して更地にする話になってしまう。その際に家財道具である国民を道連れにするのか?


 アパートを残して、大家は次の店子を探せば済む話じゃないか。まだ家財道具の国民やアパートの住人がいる状況で建物を壊すような、聖獣の契約解除も変だった。一方的すぎる。


「もしかして……すっごく嫌な予感がするんだけど」


 そのさきを口にする前に、オレは齧ったクッキーごと草原にいた。ここは覚えている。死んだオレがカミサマと出会った場所で、ちくちくしない芝が植えられた丘だった。


「聖獣ってカミサマの一部だったりしない?」


『勘のいいガキは嫌いだよ』


 あ、それ両手を合わせて錬成しちゃう系のアニメ。個人的に漫画の原作の方が好きでした。じゃなくて……。


「お久しぶり、カミサマ」


『君は好き勝手楽しんでるみたいだね』


 振り返った先に、見覚えのある子供がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る