235.薄荷は嫌いじゃないけどね(1)

「落下は嫌いだって言ってんだろ!!」


 目覚めの叫びは勢い良すぎた。目に飛び込んだのは、見知らぬ天井ならぬ……挙動不審なベルナルド、顔を見合わせるジャックとシフェルだった。少し離れた場所で、セシリアが孤児達を背に庇っている。


 ……やっちまったな。これはオレが狂った! の一択じゃん。冷や汗がじわりと肌を濡らす。


 カミサマ、どうして周囲の時間も止めなかった。せめて体ごとキャトるとか……他に方法を考えて欲しかったぜ。


「落ち着いて聞いてください。キヨ」


 覚悟を決めたシフェル、真っ直ぐ目を見て言い聞かせる。


「まず薄荷はっかは気付け薬に使いました。嫌いなのは知らず失礼しました」


 薄荷じゃなくて、落下な。だがこの際、それなら辻褄が合いそう……とオレは頷く。ちなみに薄荷もミントも好きです。メンソール系っての? あのすーっとする感じが気持ちいいから。


「さきほどまで固まって動きませんでしたが、あなたが淡く光っていました。心当たりは?」


「……おぼ、えてません」


 くっそ。これじゃ、まんま宇宙人にキャトられた感じ。宇宙船でのことは覚えていません。これで通そう。カミサマも記憶を消しておくと言ってた。いっそ、本当にオレの記憶も消してくれたらよかったのに。


『主、僕……主がキャトられる瞬間見ちゃった』


 きゃって両手でゴメン寝スタイルしながら、青猫が腰を振る。いや……正確にいうならくびれがないから尻を振るか。これが神の一部? 真顔で睨みつけてしまった。


 ちらちら見て、ウィンクして寄越す。まさかとは思うが、神の性格の主流部分がブラウだったら……ゾッとした。世界崩壊するから、神様はバラバラでもいいと思うぞ。


「あ、あの……頭の頭痛が痛いんだけど」


「……重症ですね。寝かせましょう」


「悪いな、難しいことばかり頼んだせいだ」


 あえての言葉選びを、シフェルは「頭の中身が可哀想な子」認定し、ジャックが申し訳なさそうに謝った。黙っていたベルナルドが、オレを横抱きにする。そう、お姫様抱っこだ。


「歩けるっ!」


「我が君、大人しく安静になさってください」


 お爺ちゃんと呼べる年齢の方に、涙目で懇願されてしまった。すごい罪悪感。このオレが罪悪感に苛まれる日が来るなんて……想像もしなかった。地味にダメージ大きい。


 胸を押さえた姿に、セシリアが指示を出して客間が用意される。あっという間に運ばれて、知らない天井となった。


「頭が頭痛になって痛いのに、胸を押さえるんですね」


 馬鹿にするシフェルの挑発を無視して、ベッドの上で丸くなってシーツを被った。疲れたから明日考える。明日やるから、もう今日は放っておいてくれ。

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