71.味方救出のヒーロー気取った悪役(3)

「レイル、ナイフ貸して」


「やだよ、前貸したやつを先に返せ」


 軽口を叩いて肩をすくめる。その間にもレイルは襲い掛かった男を一人倒した。足元に崩れ落ちた男が噴出した血に顔をしかめてタオルで拭っている。それくらいなら顔や頭には被らないようによければいいのに。


「へたくそ」


 思ったままに罵って、赤い頭巾の男が腰のベルトから抜いた短刀に目を細めた。サシャが持つ半月刀に似た形状だが、もっと全体に細くて華奢な感じがする。ゴツイ大男が好んで使う武器なら、特殊な効果があったりして。


 男が走りながらナイフを振るうと、避けたはずの腕に細い傷が浮いた。ステップを踏んで左に避けたオレは首をかしげる。再び突き出されたナイフを後ろへ避けて、肩に浮いた細い切り傷を確かめた。


 最初はギリギリ、2回目はもっと距離を開けた。それでも追いかける形で傷がつく。特殊な形状を利用して、相手の目に錯覚を起こすらしい。間合いを見誤るよう仕掛けがされていた。


「ふーん」


 だ、欲しいな……これ。


「強がってもお前には避けられない」


 2度の手傷を負わせて勝ちを確信した男が、ナイフを大きく振りかぶった。首から肩に掛けて切り裂くつもりだろうが、オレは避けずに前に出る。


「避ける必要ないじゃん」


 強がるでもなく、呟いて乾いた唇をぺろりと舐める。身体に引き付けた3本目のナイフを、がら空きの男の胴体へ突き立てた。上から襲うナイフの刃を目で追いながら結界を張る。身体の表面を覆うレインコートのようなイメージだったので、刃がつるんと滑って落ちた。


「あっ……」


 足元に落ちたナイフは男の手から地面へ向かい、予想外の結果をもたらした。レインコートをイメージしたオレが悪いのか。足の甲にぷすっと突き刺さった。


「うそっ!」


 直後に倒れてくる男に押し倒される形で転がり、じたばたと助けを求める。


「ヒジリ、ブラウ……コウコでもいい。何とかしてぇ!!」


 死んだ男は重く、子供の身体で抜け出すのは至難の業だった。有り余る魔力があるだろうと簡単に考える奴がいたら、横っ面を張り倒してやる。魔力があっても、この状況を打破できる魔法がなければ役に立たないのだ。


『主殿、生きておるか?』


 ヒジリが器用に地面をでこぼこさせて、死体ごとオレを転がしてくれた。息を切らしながら身を起こし、ぺたんと座り込む。


「戦場で男に押し倒された挙句、騎乗位とは……お前、話題の宝庫だな」


 げらげら笑いながら近づいたレイルを引っ張って、死体の上に放り投げた。倒れた勢いで、顔をぶつけたレイルが両手を地面について身を起こす。


「戦場で子供を襲う変態にキスを迫った挙句、壁ドンとは……レイルも変態さんだな」


 そっくりパクって現状を突きつけてやる。互いに顔を見合わせて笑いながら、死体から離れた。

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