71.味方救出のヒーロー気取った悪役(2)
誰かからの預り物だった気がするが、この際だから借りておく。オレが持つには大きな剣を一度地面に突き立てた。ナイフを横に構えて相手の出方を待つ。足のナイフを抜くか、そのまま反撃に転じるか。
「キヨ、やられたら嫁候補から借金取り立てるぞ」
笑いながら声を掛けてくる場違いなレイルに「邪魔」と吐き捨てる。赤い悪魔の名の由来は赤い髪じゃなく、返り血塗れの戦場での姿が原因じゃないのか。真っ赤に半身を染めたレイルは、愛用のナイフ片手に高みの見物だった。
これがジャック達だったら、助太刀に入るだろう。しかしレイルにそんな義理はない。戦っているオレに気付いて見に来ただけだった。面白いから……その程度の理由で戦場を走り回る男だ。
「出世払いだろ。この守銭奴が」
レイルへの文句を口にしながら、赤い頭巾男へ距離を詰めた。抜こうとして諦めた男の足に刺さったナイフに手を触れ、梃子のように自分の身体を上に跳ね上げる。ほぼ真っ直ぐ男の上に飛び上がったオレの左手が、身を捩る男の肩に触れた。
某国の雑技団さながらの曲芸を披露し、くるりと一回転して男の首に刃を当てた。そのまま背中側に滑り落ちるオレのナイフが、キンと甲高い音で折れる。
「……ちっ」
舌打ちして折れた予備ナイフを捨てた。落ちる勢いを利用して首を落とす予定だったが、さすがに男も無抵抗で殺されない。戦場でそれなりの修羅場を生き抜いた男は、反射的に持っていた銃で首を守っていた。銃の金具に引っかかったナイフに無理な力がかかって折れたのだ。
足がつくなり転がってからバク転して距離を稼ぐ。反対側に置いてきた剣の前で、ヒジリが威嚇の唸りをあげた。
「動くな」
ヒジリに待てを命じて、新しいナイフを用意する。これで3本目だ。残りは包丁入れて2本か。
『主人、攻撃してはダメなの?』
「オレから離れた場所ならよし」
『酷い命令ね』
文句を言いながらもコウコは少し離れた集団へ、炎のブレスを放つ。無造作に行われた大虐殺に、北の兵が動揺した。本来は北の国を守護する精霊である赤龍が、敵の言葉に従っているのだ。信仰や宗教の概念がないこの世界だからこそ、聖獣の存在は大きいはず。
『薙ぎ払え!』
「ブラウ、それはオレが言いたかった」
有名アニメの名言じゃないか! 横取りした青猫に文句を言いながら、ふと和んだ自分に苦笑いする。思ったより怒りに支配されていたらしい。
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