第18章 正直、オレには荷が重い
101.顔合わせと密談は薔薇の園で(1)
襲ってくる薔薇がいる垣根の内側で、お茶会が始まる。風が心地良い円卓の上には、豪華な軽食が並べられた。少しフリルの多いブラウスに着替えたリアムの手をとって、エスコートさせてもらう。
「どうぞ、皇帝陛下」
戯けて椅子を引くと、くすくす笑いながらリアムが腰掛けた。本来は執事や侍女達の仕事なのだが、この垣根の内側は許可がなければ立ち入れない。護衛の騎士も外側で待機が原則だった。
「セイ、この場では私で構わないか」
可愛く黒髪を揺らして首を傾げられると、いやとは言えない。外に声が聞こえなければいいかと頷いた。
「いいよ。俺が私になるんだろ。あれ、皇帝陛下の時は余だっけ?」
多くの一人称を使い分けるリアムに確認すると、苦笑いしながらお茶のポットに手を伸ばす。その手をそっと止めて、オレは紅茶をカップに注いだ。普段ならノアがしてくれる。紅茶の色を確かめながら、2つのカップを満たした。
「この場所でお茶することが多いけど、理由あるの?」
「ああ、ここは音が漏れないから秘密の話をするのに向いている。薔薇が魔法植物でな。音を食べる」
音を食べる植物だと言われても実感がない。確かに周囲の騒音が届きにくいけど、まったく聞こえないわけじゃなかった。だから余計に違和感がある。
「食べる音を指定してある。内側にいる人の話し声だ。それ以外は興味を示さないよう、魔法陣で制御しているらしい」
「へぇ。やっぱ異世界だな」
呟いた途端、リアムが目を見開いた。
「そうか。セイは異世界人だった」
「馴染み過ぎって言われるけどね」
茶化して雰囲気を軽くする。さきほど暗くしてしまった場を盛り上げようと必死だった。リアムには笑っていて欲しいのだ。それは可愛い服で愛嬌を振り撒くより大切なことで、彼女が笑うだけで気持ちが明るくなる。
「聖獣もいいかな」
「もちろんだ!」
嬉しそうなリアムの表情に微笑み返し、まずは折り畳みベッドを取り出した。ヒジリ達の椅子がわりにするのだ。それから足元の影に声をかけた。
「ヒジリ、ブラウ、コウコ、スノー」
声をかければ誰かが出てくる。その程度の感覚で全員の名を呼んだら、全員集合だった。艶のある立派な黒豹、小さめの青猫、某国のお土産みたいなミニチュア龍コウコ、最後にチビドラゴン姿のスノー。全員が折り畳みベッドに乗っかり、当然ながら重量オーバーで折れた。
がたんと大きな音がしたので、騎士が声をかける。
「陛下、英雄殿。今の音は……」
「ああ、問題ない」
端的なリアムの答えだと足りない気がして、補足してしまった。
「聖獣が椅子から落ちた音なので、お気になさらず」
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