19.闘争より逃走(8)
のそのそ這い出したオレの背中に大きめの石が落ちてきた。拳くらいの大きさだが、2階の屋根から投げたくらいは高さがある。驚くほど痛かった。
「う……動きたくない、けど死ぬの、もっとやだ」
呻きながら這って進む。右足が半端ない腫れ方をしているので、左足で地を蹴りながら手の力だけで身体を引っ張った。指先が痛いし、爪が割れてる気が……でも見たら動けなくなりそうで、出来るだけ指先を見ずに必死で手を動かす。
喉が奇妙な音を立てる。粘膜がくっついて呼吸の邪魔をしていた。ぜえぜえと聞き苦しい音がする喉を、ごくりと鳴らした。唾を飲んだつもりだが、まったく唾液がなくて痛いだけ。
「し、ぬぅ……」
先ほどの崖が崩れたら、離れていないと危険だ。巻き込まれないよう距離を取って、近くの大木に寄りかかった。後ろを見れば、思ったより距離は近い。
歩いたら数十歩の距離なのに、30分くらい這った気がした。実際の時間はわからないが、ようやく木の枝の間から空が見える場所で苦しい息を整える。
寄りかかった木に
子供の身体をすっぽり包み込んだ木が風を遮るのか、なんとなく温かい。ほっと息をついて身体を丸めた。痛い場所を庇う形で、自然と胎児に似た体勢になる。
「……オレ、もうダメかな」
涙が滲んできた。
ひどく惨めな気分だ。
半日前の午後はリアムと一緒にお茶を飲んでいた。愚かにも実力を過信して泥に飲まれ、敵地に放り出され、殺し屋に狙われた。楽をしようとした考えを戒めるように逃げる破目になり、豹に追われて怪我した挙句に、このざまだ。
腹に刺さった枝を抜いた傷は激痛の温床で、飛び降りた際に痛めた右足首は骨折かもしれなくて、発熱で意識は朦朧とするわ、喉が痛くて呼吸が苦しい。
……カミサマ、ホトケサマ、もう調子に乗らないから助けて。
かつての世界の癖で、適当な祈り言葉を思い浮かべながら両手を合わせた。しばらくそうしていて、なんだかおかしくなる。目尻に滲んだ生理的な涙を拭いて、ひとつ大きく息を吐いた。
うん、まだ頑張れそうだ。
「あ、いた」
虚を覗き込む人の気配に、びくりと肩を震わせる。いつの間にか寝ていたらしく、見上げる先は明るかった。夜が明けている。
「心配したぞ、キヨ」
「大丈夫か? うわ、ケガしてる」
「え? 絆創膏使わなかったのか」
「いや貼ってあるけど、治ってないな」
「それより外へ出せよ」
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