202.灯台下暗し? 灯りをケチるな(3)
岩の上で歌う美女姿だが、過去の記憶から作り上げたので水着着用タイプだ。等身大より少し大きく作ったので、近くにいると涼しい。子供のいる場所でも安心して設置できるだろ。
早くリアムにも見せたいな。あ、この世界にプールってあるのか? プールサイドに設置すると涼しげだけど、なければ噴水に立ててもいいな。想像が膨らむオレの前に、おっさん集団が帰ってきた。
騒がしい一団は、綱で拘束した捕虜らしき数人を連れている。
「キヨ、捕まえたぞ」
「お疲れ」
「お、スポドリだっけ? 俺にもくれ」
「土産はあとだ」
説明も後回し、手足に返り血を浴びた連中がスポドリの鍋を囲む。行儀悪くカップを直接入れて飲むが、残り僅かなので注意はやめた。それより後ろに連れてる捕虜が気になる。手や首に宝石や貴金属がじゃらじゃら巻いてあるので、貴族階級か。
「これが土産?」
「南の国の王族だとさ。逃げ回る貴族を脅したら、あっさり隠れ場所を吐いた」
「あいつら根性が足りねぇよ」
「貴族なんてそんなもんだろ」
好き勝手に吐き捨てる傭兵達を、浄化で綺麗にする。ちょっと汗臭いので、先手を打ったオレにジャックがにやりと笑った。
「褒美は奮発してくれていいぞ」
「……確かに王族だわ」
手元の資料の似顔絵と照合したクリスティーンが呻く。応援に正規兵を率いてきたのに、騎士団が活躍する前に戦争が終わってしまった。損害なく南の国を制圧したことは評価に値するが、まったく出番がないまま解決した結果をどう報告したものか。
出兵した意義を問われそうだと悩む横で、何でもなさそうにジャックが提案した。
「手柄ならやるぞ。俺らは報酬だけもらえばいい」
「そうそう。肩書なんて重いだけだ」
「だが……っ!」
反論しようとしたクリスティーンに、傭兵達は口々に「永住権が欲しい」だの「新しい官舎のベッドが欲しい」だの要望を口にする。それらを慌てて書き留める彼女が吹き出した。金髪を揺らしてひとしきり笑うと、口を開く。
「こうしよう! 連合軍が頑張りました……その結果として危険な任務を担った傭兵に多めに支払う。どう? もちろん官舎を豪華にしてベッドも最高級の物を用意させるわ」
「「いいじゃねえか」」
ライアンとサシャが嬉しそうだ。まあ、あの官舎のベッド硬かったからな。寝心地だけなら、戦場の折り畳みベッドの方が快適だった。生活環境の改善をメモしたクリスティーンの後ろで、傭兵から騎士へ捕虜の引き渡しが行われる。丸く収まったようで、オレとしては一安心。
にしても……王族の連中静かだな。攻め落とした街の領主だった王子の横暴さを見ると、結構酷い騒ぎをすると思ったのに。そう考えながら観察すると、全員口いっぱいに布を押し込まれて縛られていた。猿轡を通り越し、あれじゃ息が苦しそうだ。同情するほど知らない奴だけど。
「あれ、死なないのか?」
「キヨ、人間ってのは意外と丈夫だ」
「そうそう。それに国民捨てて逃げる奴に同情はいらん」
「最低だな」
傭兵達が見た暴露話で、南の民は驚くことなく「ああ、やっぱりな」と納得して王族を差し出した。
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