166.世界征服? 冗談でしょ(2)

 リアムは無邪気に喜んでいる。シフェルとウルスラ公認だが非公開の婚約者であるオレを褒められたと、嬉しそうに声をあげた。


「私の婿殿は三国一だ!」


「三国どころか、すべての国を探してもいない破格の存在ですわ」


 皇帝陛下を凌いでいるらしい。この宮殿に来たばかりの頃は「まだまだ届かない」と言われたのに、聖獣チートでドーピング超えしたようで……。ヴィヴィアンはリアムに笑顔で頷いた。


「お前、いっそのこと世界征服しちゃえよ」


 レイルがげらげら笑いながら、悪いそそのかしをする。リアムの黒髪の匂いを嗅いで、ちょっと隣室を思い出したオレは慌てて首を横に振った。


「やだよ、面倒くさい」


 世界征服なんかしたら、仕事が山積みになりそうじゃん。オレは有能な宰相と強い騎士に守られるお姫様の婿になって、チートな引きこもりを目指すんだから。皇帝陛下のヒモが理想の生活だ。


「世界征服は後で検討するとして……まずは北の国へ行くのでしたね」


 話を纏めにかかったシフェルの表現に、一部おかしいところがあるが? なんで「後で検討」になってるの。嫌だって言ったよな。


「北の国は、義理だけど一応家族がいるから」


 義理の父と妹が出来た。オレを王子で迎える代わりに、王太子のシンや一緒に捕らわれた兵士も返してあげるのが条件だ。中央の国が圧倒的勝利をした原因は、北の聖獣コウコをオレが手懐けたから。異世界人チートだが、仕方ないよな。人間同士の戦いに聖獣をぶつけたのは、北の国の貴族だ。


 王族の権威が落ちて蔑ろにされた北の国では、勝手に公爵やら侯爵やらが湧いて出て、国王の代わりに西の国と軍事同盟を結んだ。西の国にオレが浚われたため攻め込んだ騎士団のスマートな戦で、勝利を収めたことが彼らの気に障ったらしい。


 今度は北の国と戦になったため、オレは突然戦場に放り込まれたわけだ。コウコを狂わせた奇妙な紐は貴族がどこかで見つけた魔道具だが、おかげで赤龍が味方になった。帰り道でうっかりドラゴンに飲み込まれたスノーも回収できたので、最終的に北の国からの戦果は大きい。


「挨拶すべきだろう。余も一緒に……」


「陛下は執務がございます。ましてや今の状況でご挨拶など無理です」


 ウルスラが淡々と言い聞かせる。リアムがしょぼんと肩を落とすが、ここは待ってて欲しい。まだ向こうが安全かわからないし、きちんとから嫁を紹介するのが順番だ。


「リアム、お土産を持ってくるから待ってて。転移で行って帰ってくるから、すぐだよ」

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