317.家族の肖像……重っ(2)

 横になって、ごく普通に就寝した――ごめんなさい、嘘ついた。キングサイズのベッド上は、ひと騒動起きたのだ。


 義父ハオが横になり、腕枕でオレが横に……となるはずが、間にマロンが入り込んだ。見た目が小型版オレなので、ハオは機嫌よくマロンを抱き込む。グッジョブ、マロン。おかげでオレが助かった。そこへヒジリがのそりと現れ、オレの空いてる右側に陣取る。ここまでは良かった。


 スノーがじたばたしながらも枕元に落ち着き、丸くなったところをブラウに邪魔される。怒ってケンカになり、真下でオレの顔を踏んづけた。肉球だったので、踏んだのはブラウだろう。普通猫サイズじゃなかったら、オレの美しく作ってもらったお顔が崩れるところだぞ!! カミサマによる究極の美容整形作品なんだからな!?


 ブラウを殴って大人しくさせ、スノーは枕の端に落ち着かせた。尻尾の先をどうしても触れていたいと願うので、それも許可する。これで完璧だ。そう思った翌朝、オレの両足が微妙に広げられ、膝のあたりで丸まる青猫が挟まっていた。


 それ以上の悪戯をしてたら鉄拳制裁だが、このくらいは実家の猫もやってた。仕方ないと溜め息を吐いてから身を起こし、手招きしてブラウを膝に乗せる。羨ましがるスノーが膝によじ登り、マロンが腕に抱きついた。のしっと背中に体を預ける黒豹……あ、無理。


 潰れそうになったオレを救出したハオは、朝から爽やかな笑顔を向けてくる。


「聖獣殿に好かれて、キヨは幸せだな。さて、今日は裁判を楽しむのだろう? どの衣装が良いか」


 嬉しそうに手を叩いて、支度の侍従を呼び、大量の衣装を並べた。次々と運ばれる分を無視して、銀の刺繍が入った黒い絹の民族衣装を選ぶ。


「これがいい」


「ふむ、帯は赤か青、いやくすんだ黄色でもいいか」


 唸りながら検討する義父に任せて、さっさと顔を洗って着せつけてもらった。最終的に帯の色はオレが青を指さして決めた。気づいた? これ、リアの髪色を纏って、瞳の色を帯にしたんだよ。


「おはよう、キヨ。そして父上」


 親の寝室に入ってきて、挨拶の順番がおかしいぞ。シンを睨むと、目の下に隈が薄く浮かんでいた。どうやら昨夜はちゃんと反省したらしい。仕方ない、ここらで許してやるか。


「おはよう、シン兄様」


 きらっと目を輝かせてわかりやすく喜ぶ義兄と、ご機嫌の義父に手を引かれて食堂へ向かう。後ろから見ていたブラウが、ゆらりと尻尾を振って首を傾げた。


『ほら、あの……捕まった宇宙人みたい』


 お前の異世界知識は深いな。もしかして何かのアニメに出てたか? 顔だけ振り返るも、そのまま連行されるオレは食堂でヴィオラの大歓迎を受けて、あり得ない量の朝食を頬張ることになった。


 豪華すぎる料理を、聖獣用の皿に乗せる。匂った後、彼らは先に口をつけた。別に毒見じゃないぞ。いつもの作業を続けるオレの前に差し出される花巻を齧り、レンゲで掬った料理を流し込まれた。


「自分で食べられるっ!」


 聖獣の準備が終わって立ち上がったが、レンゲや箸で料理を差し出す一家の圧力に負け、大人しく口を開いて食べさせてもらった。こんなの、日本での記憶にもないっての。


「キヨが大きくなったら出来ないからな」


「そうだ、今だけの限定だ」


 口々に言われてしまえば、逆らうのも大人げない。それに日本で落ちこぼれたオレは、家で邪魔者だった。こういう団欒、懐かしいな。擽ったい気分だが、甘やかされることにした。

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