321.ゲスの処分は容赦無く(1)

「以上、各貴族家の資産の差し押さえと、爵位の返上を以って王家への償いとする。ここからは陳情があった民からの訴えについてだ」


 木槌片手に宣言した国王ハオの隣に、すたんと降り立つ。黒豹に跨がる美少年様のお出ましだ!! ここで貴族がざわめいたのは、オレの存在ではなく黒豹である聖獣ヒジリの方だった。だよね、わかるぅ……けど、腹立つな。


 貴族家の名を公爵から順番に読み上げた宰相閣下は、後ろを向いて水をがぶ飲みし始めた。のど飴ってこの世界にあるのかな? 今度作ってみるか。確か生姜の搾り汁を垂らした蜂蜜を固めるお仕事だった気がする。あれならクッキーと違ってオーブン使わないから、爆発しないだろ。


 焼き菓子の時は、厨房を吹き飛ばして料理人に泣かれたからな。英雄の報奨金を使って、立派な厨房を作り直したけど。さすがに悪いことをしたと思うわけ。あのあと、オレ専用の台所が作られたが、最初からそうすりゃよかったんだよな。


 ちょっと横道に逸れた考えは、目の前で文句を並べる貴族達の様子に呆れたからだ。好き勝手言わせて、言質を取ろうと思ったけど……そのレベルですらなかった。お前の母ちゃんデベソ級の低次元だ。もう黙らせた方がいい。


「国王陛下……パパ」


 公式の場なので「国王陛下」と呼んだら無視されたので「パパ」に変更する。機嫌よく振り向くのもどうかと思う。そんなふうに公私混同してるから、舐められるんだぞ。逆に舐めてるところを、ぎゃふんと言わしてやんよ。やばい、古い言葉を使ったら自分が恥ずかしくなった。


 赤くなった耳を誤魔化すように指で摘む。くそ、顔や首まで赤くなった気がする。


「パパにお願いがあるなら言ってごらん?」


 整った顔のロマンスグレーが台無しのセリフを吐く国王陛下を睨みつけた。ところが、何かお強請りがあると思われて、嬉しそうにハオが微笑む。後ろに尻尾があったら、千切れんばかりに振られてるだろう。


「裁判が終わったら」


 ここで言葉を濁す。その後何を望むとも言わないが、北の王様のやる気は一気に増大した。ちょろすぎて逆に申し訳ない。


「裁判を進めるぞ! 申請した順番通りに申し出るがいい」


 崩れた威厳を立て直した国王陛下のお言葉だ。貴族達の爵位が返上になった今、同じ平民同士怖いものはなかった。金も権力もなくなれば、それを振りかざした連中が仕返しされるのは、正常な世の中だよ。


「ハールス侯爵家の嫡男に、娘は凌辱されました。その後、仲間に下げ渡されボロボロにされ……自殺しました」


 泣きながら告発した父親の隣で、姉妹らしき女性が膝から崩れた。胸糞悪い話だが、こういうのが沢山あったと思う。王家の威信が落ちるってのは、国が腐るのと同意義だった。国の要が揺らげば、周囲も一緒に揺らぐ。腐った根から生える茎も葉も花も、すべて腐臭を放つのだ。


「どんな罰を望むの?」


「あの男が生きていることも許せない! 娘は死んだんだ、殺されたんだぞ! 殺してくれと懇願するほど酷い目に遭わせてやりたい」


「いいよ、オレが許可する。でも順番が違うな」


 にっこり笑って告げる。こういうのはね、娯楽が多い日本だと逆なんだよ。


「ひどい目に遭わせるのは賛成、そこで殺してくれと懇願するまで痛めつける。でもね、最後に希望が必要なんだよ。死にたくないと懇願する男を殺してこそ、娘さんの無念が晴れるんじゃない?」


 笑顔でそう告げたオレの隣で、ヒジリがにたりと笑った。


『さすがは主殿だ』


『僕も賛成だな、そういう奴って生き汚いじゃん。助かるかも? って希望を持ったところで断ち切るのは、いいと思う』


 ヒジリとブラウ、2匹の聖獣の賛成が得られたんだ。ちらっと視線を送った先で、やや青褪めた顔色のハオが頷く。


「よかろう、その願いを叶える。ハールス侯爵家嫡男マルコの処刑は、竜殺しの英雄にお任せする」


「ありがとう、パパ」


 そう言って笑ったオレは、マルコという侯爵子息にとって悪魔だったと思う。だけど、家族を失った親子にとって救世主だろう。外見が金髪の美少年だから、天使かな?

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