270.裁判開始、ざまぁしてやんぜ(2)
ぎりっぎりの位置で停まる2台は、どちらも豪華な仕様だった。背伸びして覗いた感じだと、北の国は中が臙脂系だ。逆にシックな紺色で纏めた中央の国……どちらも王族や皇族用だと思う。これだけ魔法が発達した世界で、馬車。あれか、駐日大使が馬車で皇室に向かうのと同じだ。古き良き伝統ってやつ。魔法陣でも持ってくればいいのに。
「両方要らない」
どっちに乗っても角が立つ。ここでどうしても選ぶなら、未来のお嫁さんのリアムの馬車だが。今回シンにお願い事してるから、今は機嫌を損ねたくなかった。にっこりと笑って両方断るのが正解だろう。後ろでじいやが興味深そうに見てるから、失敗は避けたい。
「魔法で飛ぶ。それぞれに帰ってきて」
ショックを受けている御者や騎士を見て、主君に叱られる心配をしてるのかな? と気づいた。これはますます片方の馬車に乗れない。というより、選ばれなかった方の従者が叱り飛ばされるパターンだろ。
「シン兄様と皇帝陛下には、オレが説明するから安心していいよ」
付け加えた言葉に「ありがとうございます」と深々頭を下げられてしまった。逆にこっちが申し訳ない。我が侭な兄と嫁に振り回される彼らを労い、じいやを手招きして腕を掴んだ。
「触ってないと飛べないから」
結界で包んで飛ぶからさほど危険はないが、触れていた方が成功率が高い。オレの付属品扱いが一番安全だった。失えない大切な執事なので、安全確保はオレの役割だろう。頷いたじいやを連れて、ぱっと転移する。
何度も行った作業だから、淡々と手順を踏んだ。もちろんミスって異空間にじいやを忘れる失態はない。完璧だった。目を閉じて開けたら、宮殿前……。
「これが魔法による転移ですか。便利ですな。魔法陣は使用したことがございますが……」
オレは魔法陣なしだからね。一度来て覚えてる場所なら飛べる。だがじいやは、淡々と別の指摘をした。
「本日は裁判所に集まりますので、あちらですぞ」
指さされた方角はちょっと遠かった。だが裁判所は行ったことがないから、転移の対象じゃない。見える場所ならいけるか? オレだけなら無事だと思うけど、じいやを連れて賭けはちょっと。うーんと唸ったオレの足元から、ヒジリがのそっと顔を見せた。
『主殿、乗っていきますか?』
「あ、そうか。聖獣がいた。マロン」
オレはヒジリに乗るとして、成人男性のじいやも乗せたら重量オーバーだ。ならばここは、栗毛の馬一択! 巨大トカゲになるスノーは絵的に無理だし、コウコは皇帝陛下の警護中だ。青猫は論外。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます