270.裁判開始、ざまぁしてやんぜ(3)

『ちょ、いま……僕をディスらなかった?』


「カンのいい猫は嫌いだよ」


 某アニメのセリフを舌打ち付きで改変したら、じいやに「舌打ちは品がありませんぞ」と注意された。ごめんなさい。舌打ちまでセリフとセットだから、これは譲れない。


「ブラウは好きにして」


『ご主人様、僕に乗るんですか?』


 目をきらきらさせるマロンは、角が立派な栗毛馬状態で現れた。興奮してるところ悪いが、乗るのはじいやだ。絵的にオレと逆は厳しい。


「今日はじいやを乗せてくれ。マロンだから頼れるんだ」


「……聖獣たらし、ですな」


 じいや、余計な事言わない!! キッと睨んで、マロンの機嫌を取る。いつもならゴネそうなのに、今朝は上機嫌だった。


『僕は頼れる聖獣ですから』


「うん、さすがマロンだ」


 さらにおだてて、木に登るところまで持ち上げる。得意げに首を反らせたマロンは、文句を言わずにじいやを乗せてくれた。聖獣って基本的に単純だよな。失礼なことを考えながらヒジリに跨った。


「あっちにある裁判所まで」


 タクシー感覚で指示すると、ヒジリは場所を知っているらしい。詳細を聞かずに走り出した。横を駆ける青猫、後ろにじいやの乗る裸馬……鞍が見当たらなくてね。次から収納に入れることにした。ちゃんと収納用メモに記載したぞ。


 多くの貴族馬車が連なって順番待ちをする群れを通り過ぎて、建物の入り口まで横づけである。馬車が入れる場所はもっと手前だが、間にあるゲートをひとっ飛びされた時は、ひゅんとしたよ。これは男にしか分からない場所だ、うん。じいやが複雑そうな顔をしてたから、頷きあう。


「キヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・シュタインフェルト様です」


 先に降りたじいやが当然のごとく紹介役を買って出てくれた。おかげで自分のフルネームを言わずに済む。近々、また変わるから。最終形態だけ覚えておけば問題ないと思う。


「こちらへどうぞ」


 すでにシフェルかウルスラが手配していたのだろう。オペラハウスみたいなステージがある舞台の客席を回り込み、上階にある個室みたいなところに通された。ここ……たぶんオペラハウスじゃないか? 本当に裁判所? 個室には高貴な人も来るようで、カーテンまで用意されていた。


 裁判所でカーテン下ろして見物するなんて、被害者や加害者の家族くらいしか思い浮かばないけど。まれに高貴な方がお忍びで来られるのかも。リアムが来たら裁判も大騒ぎになるから、特別な時以外はカーテン越しに見てる可能性はある。


 個室の中には、ある意味想定通りの人たちが待っていた。

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