13.盾となる名誉(2)

 そして遠距離ならばなおさら、銃声の心配は不要だった。逃げる時間を稼げるだけの距離があるからだ。サバゲーでも使った経験はあるが、照準がずれるため夜間戦闘でもなければ使用しないのが常識だった。


 伏せたまま、侍女が倒れた方向と芝の上の痕跡を確認した。どうやらリアムを狙った銃弾が逸れて、オレの足元の芝を撃ちぬいたらしい。リアムを背後に押し倒す形で倒れたから、顔が向いている方角に敵がいる。そう判断して顔を上げた。


 侍女の頭部から赤い血が流れる。倒れた時にケガしたのならいいが、最悪、銃弾が当たったかも知れない。ぴくりとも動かない彼女の様子に唇を噛んだ。


 こんなに簡単に、この世界は人が死ぬ。殺されるし、殺す。理解していたようで、まだ甘かったのだと突きつけられた。




「痛……っ」


 腕の中で聞こえた小さな声に、思わず息を止める。


「ケガしたのか?」


「頭を打った」


 倒れた時にぶつけたようだ。銃声が聞こえないから何発撃たれたかのわからない。まだ狙われている可能性があるので、身を起こすことも出来なかった。


「ゴメン、もう少しだけ我慢して」


「狙撃か?」


「たぶんね」


 もそもそと腰に手をやり、銃がないことに気付く。謁見はもちろん、皇帝陛下との私的なお茶会に銃や武器を持ち込める筈がなかった。丸腰だと気付いて青ざめる。


「銃、持ってる?」


 あるわけない。皇帝が自ら戦う必要はなく、そんな事態になれば負けが濃厚という意味だ。案の定首を横に振るリアムに「そうだよなぁ」と情けない声を出した。


 万が一にも銃弾がリアムに届かないよう、己の身体を盾にする形で胸の下にリアムの頭を抱き込む。頭の方角にいる敵からは、オレが邪魔になってリアムを狙えないだろう。


「参ったな」


 呟くが、ふと周囲がなことに気付いた。侍女が派手に悲鳴を上げ、磁器のポットが甲高い音を立てて割れる――護衛の騎士からすれば、十分異常事態だろう。


 誰も助けに来ない。それどころか様子を見に来る奴もいない。


「リアム……おかしくないか?」


「ああ、


 リアムの言葉に、やはりおかしいと確信した。通常ならいるのだろう。


 耳を澄ませても何も聞こえない。そして銃弾による襲撃も止まった。


 考えられるのは――

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