13.盾となる名誉(3)

「陛下、ご無事ですか!」


 駆け込んだのは騎士ではない。豪華な装いの貴族だった。謁見のあと着替えていないのか、普段からこんな派手な衣装なのか。どちらにしても


「こちらです」


 身を起こして呼べば、慌てて駆けつけた貴族が手を差し伸べる。先に立ち上がって同じように手を出せば、見比べたリアムはオレの手を取った。


「このっ下賎が! このような輩の手を取るなど! 陛下は襲われたのですぞ」


 35歳ほどの男は唾を飛ばして怒鳴り散らす。まるでオレが犯人で陛下を害したと言わんばかりの発言に、リアムは面倒くさそうに吐き捨てた。


「余の友を下賎と呼ぶか……リュアシム伯」


 苛立ちを込めた呟きに、リュアシム伯と呼ばれた貴族はさらに失言を重ねた。


「友、ですと? 陛下に銃口を向けた賊に対し」


「あれ? 変だな」


 小首を傾げて疑問を呈するフリでオレは呟いた。このまま失言を聞いてやってもいいが、もう十分すぎるほど馬脚を現した小物ににっこり笑う。


「お前も気付いたか?」


 あまりに簡単すぎる推理に、リアムも笑みが零れた。


もんな、コイツ」


 コイツ呼ばわりに無礼だと怒りまくる男は、己の失言も言動の不自然さも気付いていない。


 狙撃犯とは違う男、騎士より先に駆けつけた。おそらく事前に別情報を流して騎士を遠ざけたのだろう。何か目的があって狙撃を命じた筈だ。


 そう、すべてが――狙撃犯ではないのに、どうして”陛下に銃口を向けた”という発言が口をつく?


 現場にいなかったくせに、妙に詳しいじゃないか。自白する犯人を追い詰めるオレを援護するように、リアムは腕を組んで伯爵位を持つ男を見据えた。


「誰が、いつ、”撃たれた”と言った? おかしいだろ」


 そこでようやっと自分の愚かな発言に気付いたようだ。青ざめて言い訳を始めた。


「銃声が聞こえ…そう、聞こえたのです。騎士達もそれで動いていますし」


 状況がさらに掴めた。銃声が聞こえたと嘘をつき、騎士達を別の現場に誘導したのだ。彼らが戻るまでの間に、皇帝を害する気だったのか。もしくは皇帝陛下を守り『盾となる名誉』を得たと吹聴する目的か。誘拐って可能性もあった。


 何にしろ、彼が欲にかられてリアムに銃口を向けたのは間違いない。他人の手を介したとしても、そんな奴を許す理由も必然性もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る