337.これはさらに小物だった(2)
「うん、わかった」
事前にわかっていれば、結界を張るのが一番早い。後ろのじいやや侍女ごと纏めて結界で包んだ。膨大な魔力の塊であるオレの結界は、魔力を込めたライフル弾すら弾くぜ? にやりと笑って見つめる先で、おっさんがのたうってた。
「あの人、自分で毒を撒いて浴びてるって……」
「自殺などさせるかっ!」
皇帝陛下バージョンのリアが叫び、扉を破って乱入した騎士は窓を割ろうとする。事情がよくわからないが、セバスさんがおっさんを捕まえて引きずる姿を見て、慌てた。
セバスさんが毒にやられてしまう! 自分達に張った結界とは別に、毒を包む結界を作るが、広まった分はどうするか。迷った一瞬の隙に、ヒジリが毒の瓶を叩いた。いわゆる黒豹による猫パンチだった。足元の影に吸い込まれた瓶から毒が噴出しなくなったため、割れた窓から吸い出すだけで用が足りる。
「ブラウ、吹き飛ばせ」
『あいよぉ』
気の抜けた返事だが、仕事はした。ぶわっと廊下側から空気が圧を持って吹き抜ける。テラスへ続くガラス窓が吹き飛んだが、ここは許して欲しい。緊急事態だからな。
窓枠まで落ちたのは、ちょっと勢いと計算を誤ってるんじゃ? と思ったが、一応礼を言っておく。
「助かった……毒を吸って具合悪い奴いる? いたら申告して。解毒するから」
あの毒は知ってる。本来は液体で使うんだが、暗殺によく使われ……ん? ここで気づいた。この状況はリアが仕組んだのか!
「リア、この状況は君が望んだこと?」
「そう、だ」
きゅっと唇を引き絞った彼女は、泣きそうな顔をしていた。セバスさんから引き受けた騎士が縛り上げ、おっさんは転がっている。睨み付けるリアの目が潤んで、頬を涙が伝った。
「兄の仇なんだ」
それだけ呟くと、また涙を零す。そんな彼女の前に立って視界を遮り、叔父が視界に入らないようにした。そのまま両手を伸ばして彼女を抱き寄せる。身長差はまださほどなくて、胸を貸すには身長が足りなかった。だからズルをする。足元を魔法で浮かせてみた。透明な踏み台、シークレットブーツ代わりだ。
「泣いていいよ。話は後で聞くから」
なんとなく想像はついた。それでも説明は彼女の口から聞きたい。オレの勝手な憶測じゃなくて、リアの感情も含んだすべてを知りたかった。
「これは……陛下! まさか」
「シフェル、後にしてくれる?」
転移による体調不良から立ち直った騎士団長が飛び込むが、責める響きに肩を揺らした恋人が優先だ。睨んでそう告げると、彼らしからぬ乱暴な所作でブロンズ色の髪をかき上げた。
「わかりました。この罪人は騎士団預かりで投獄します」
「絶対に逃がさないで」
承知したと頷くシフェルが付き添い、騎士に両脇を抱えられた元皇族の端くれは退場となった。喚き散らす声は徐々に遠くなり、聞こえなくなったところで彼女がくすりと笑った。
「どうしたの?」
「足下……」
ああ、透明の踏み台? ズルがバレた。一緒に笑った後、気まずそうなリアを横抱きにした。お姫様抱っこというやつだが、これ、意外と照れるな。魔法があるから重さは気にならない。
部屋はめちゃくちゃなので、少し離れた客間へ運んでベッドに横たえる。先導した侍女が一礼して、リアに上掛けを掛けた。ベッド脇に膝を突いて目線を合わせ、微笑みかける。
「今は休んで。起きたら話を聞く。このまま手を握ってるから」
こくんと頷いたリアが寝返りを打って、横向きになった。正面から見つめ合うと、美人さが際立つ。でも普段より幼く感じる。まだ24歳、竜属性なら子どもで親の庇護下にある年齢なんだから当然か。
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