126.赤がないなら白でいいじゃない(3)
「オレは陛下に呼ばれたから来たんだけど、文句があるなら陛下に言えば?」
直接言えるもんならどうぞ。軽くケンカを売る口調で突き放し、にやりと笑った。オレに直接文句を言わないのは、聖獣を従えているからだ。目に見える形で抑止力が仕事をしていた。このあと彼らに姿を消してもらえば、オレに絡んでくれそうだな。
リアムには言えない黒い想像を逞しく育てながら、オレは教えられた作法に従い頭を下げた。
「エミリアス辺境伯、キヨヒトにございます。陛下にはご機嫌麗しく。本日は晴れの場への
「セイ、楽しんでおるか?」
「はい。とても」
わざと特別な呼び方をするリアムの口元が笑みを作る。ああ、うちの嫁は煽る気満々だ。あのシフェルが近くにいたのだから影響は受けただろうが、見た目が麗しく大人しそうでも中身が伴うとは限らない。そのよい例だった。
「あとで余のダンスに付き合ってもらえるか?」
通常ここで誘われるのはどこぞの貴族令嬢や、招待された他国の王女だったりする。今回なら西の国の王女が来ているのだから、同性の友人と判断されるオレの出番なんてない。子供同士であっても、ここは対外的な外聞を気にするものだ。
「陛下の御心のままに」
一礼して申し出を受ける。当初の予定でも、王女をすっとばしてオレと踊る予定になっていた。この世界では男のダンスパートナーが女性とは限らない。そのため、男女ともに異性用と同性用のパートをそれぞれ踊れるように習うのが一般的だった。
ましてや王族や皇族が選ぶファーストダンスの相手は、特別な意味を持つ。オレという子供の価値観を跳ね上げるお誘いだった。
好戦的な皇帝陛下の煽りに、周囲がざわめく。これで貴族達は己の身をどこに置くか、派閥形成に大きく影響する一手が投じられた。現在の最高権力者である皇帝陛下に
挨拶が終わると、今度は先ほどのクラッセン侯爵の順番だ。屈辱だろうな、自分より下位だと思っていた相手に先を越され、ましてやすれ違いざまに子供に嫌味を言われるなんて。
「
労う言葉のようだが、こちらの立場が上だぞと相手を見下す単語を選ぶ。宮廷に上がる貴族なんてのは見えない場所で陰湿なイジメを繰り返して、相手を精神的に追い込むのが当たり前だ。ここでお上品な手を使ってたら、押し負けてしまう。
ぐっと拳を握りしめたおっさんを見送り、その先で手足の長い猿っぽい侯爵に向き合う。無礼なおっさんと手を組まれる前に、各個撃破と行こうか。
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