192.王都を狙え!(3)

 ヒジリが得意げに『我にとっては容易なことよ』と請け負ってしまった。住んでる人がトラウマになるから、出来るだけ優しく崩してもらおう。その上でオレが偉そうに名乗りを上げて、片っ端から肩書きを並べた挙句、聖獣を従えた姿を見せつける。


 オレ、すっごい傲慢で嫌な役じゃない? しかも狙撃されまくる気がするんだ。弾くけどね、弾くけど怖いんだぞ。異世界人の魔法が万能だって証拠ないから! 貫通する弾があったらどうすんだよ! 人前で獣とベロチューしなきゃならないんだぞ?


 唸るオレの気持ちも知らず、傭兵達は配置を決めていく。勝手にやってくれるなら、任せよう。現場のことは現場が一番よく知ってるんだから。


「これはあれだな、事件は現場で起きてるんだ〜ってやつ」


「作戦が決まったって?」


 リシャールが顔を見せたため、ジャックが説明に立つ。大まかな作戦の方針を聞きながら、リシャールの刺すような視線がちくちくとオレの肌を刺激する。違うんだ、オレが考えたんじゃないから!


 言い訳したいけど、ノアに捕まってしまった。


「さて、と。王族らしい恰好の服を用意してくれ」


 王族らしい恰好か、前に義兄シンに貰った民族衣装があったな。収納へ手を突っ込んで取り出す。なんで持ち歩いてるかって? そりゃ、オレの持ち物全部入ってるからさ。官舎のクローゼットはいつも空ですよ。


 緑の絹に金糸でびっしりと刺繍が施された豪華な衣装に、リシャールが目を瞠る。


「おまえ、本当に王族……なのか」


 めっちゃ疑われてた。気持ちはわかるが、リアムの次に美しいこのお顔に高貴さを感じてもいいんじゃない? 尋ねたら、げらげら笑う傭兵達。本気で失礼だぞ。


「キヨは黙ってりゃ、美形の坊ちゃんだ」


「まあ顔はいいな」


 ジャック、ライアンの呟きに「顔は、って酷い」と泣き真似をしてみた。スルーされた。せめて構ってほしい。


「キヨ、遊んでないで、こっち来い」


 手招きするノアに言われ、別の衣装を探す。どうやらマロンが栗毛なので、もっと派手な色の服が好ましいという。緑も十分派手だけどね。


 言われるまま「豪華な衣装」と呟きながら収納から別の絹を引っ張り出した。今度は派手だ。真っ青な絹に銀糸だった。派手だけど、青猫を思い出すのでちょっと……。


 また別の服を探す。すべて北の国の民族衣装だが、中央の国の侵攻なんだから……洋装の方がいいんじゃないか? 気づいてリアムに貰った服を探す方向へ切り替えた。


「あった!」


 並んだ豪華な絹の横に、紺色のブレザーを取り出す。皇帝陛下への謁見に使うんだから、それなりに豪華な衣装のはずだ。初めてリアムに会ったときの思い出の服を眺め、今着ている服をばさっと脱いだ。魔法で浄化してから袖を通す。シャツのカフスは紫の宝石を、紺のブレザーを羽織り、ズボンをベルトで留めた。


 手鏡をかざすノアに頷く。以前より増えたピアスに合わせ、宝石が並んだネックレスやブレスレットを取り出した。じゃらじゃらと大量に巻きつけたところで、後ろから小突かれた。


「何してんだ、おまえ。南の王都を攻めに行くんだぞ? 戦争だ、着飾る奴がどこに居る」


 情報操作を終えて戻ったレイルの言葉に、傭兵達とオレがハモった。


「「「ここにいる(ぞ)」」」

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