79.苦労したわりに評判がイマイチ(1)

『主殿、このあたりの土は鉄を含んでいるぞ』


 ひょっこり足元から顔を見せた黒豹が提案するが、どうすればいいんだろう。鉄分だけあっても……砂鉄から鉄板が出来る理屈もよくわからん。大きく首をかしげて待つと、コウコが足元で寝ころんだ。蛇が変温動物なら日向ぼっこは大切な日課だろう。


『ヒジリが見つけた砂鉄を、あたくしが熱すればいいのではなくて?』


 確かに溶けた鉄が溶岩みたいに流れる映像はテレビで観たが……その後は冷やしていいのか? 水蒸気で大爆発とかしないよな。


「熱した鉄をいきなり冷やしたら爆発しない?」


『ゆっくり冷やせばいいじゃない』


 お説ごもっともですが、それは大問題があるんだよ。


「ゆっくりしてたら、朝ご飯間に合わないぞ」


『あ……そうね』


 鉄板がないと呻いている間に、レイルは姿を消していた。ジャックやノアにも聞いたが、鉄の板なんて持ち歩いてる奴はいない。収納魔法の容量も圧迫するし、まあ無理だと思った。


 ハンバーグを鍋底で焼くか? パンだったらナンみたく側面にも叩きつけて焼けるんだが……あれ、オレは少し混乱してるぞ。もっと簡単な方法があるじゃないか!


「捕虜から鎧ってもらってもいいの?」


「……キヨ、奇妙なことを言い出したが……熱はないな」


 額に手を当てるサシャが心配そうに顔を覗き込む。いつも治癒魔法を駆使して助けてくれるサシャだから、手を振り払わずに大人しくしていた。


「あのさ、鎧で面積が広い場所が欲しいだけなんだけど」


「それをどうする?」


「魔法で綺麗に洗って平らに潰して、フライパンの代わりにする」


「……はあ?」


 かまどの上に置かれた肉焼き用の網に鉄板を乗せれば、簡易フライパンになると思うわけだ。魔法で洗浄すれば食中毒の心配もなさそうだし、そもそも高温で焼くから平気だろう。コイツらの胃もかなり丈夫だからな。


 なんでも食べる彼らの様子から、失礼な判断を下す。


「で、もらっていいの?」


 捕虜から鎧を追剥ぐ気で傭兵達に意見を求めると、後ろから鉄板で頭を叩かれた。


「……おい、フライパン代わりの鉄板だ」


「いてっ」


 振り返った先で、レイルが憮然としている。何か気に入らないことがあったのかも知れないが、とりあえず頭の上に乗っけられた鉄板を下した。近くにいたジャック達も手伝ってくれる。レイルが支えてなかったら、重さでオレは潰されたかも。


 芝の上に置いた鉄板は予想外に立派だった。しかも表面が平らだ。


「どうしたの? これ」

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