182.正規兵との激突!(3)
無言でライアンが狙撃銃の弾を補充し始めた。ノアは愛用の拳銃をベルトに挟み、収納から取り出した大量の弾薬を周囲に渡し始める。戦う気満々の傭兵につられ、住民から戦いに向けての前向きな発言が聞こえ始めた。
「そうだ、搾取されるだけの人生は終わりだ」
「こうなったら徹底抗戦だ!!」
さっきオレが渡した銃や武器は、侵入者のオレ達ではなく正規兵へ向けられた。
南の国の状況は、どうやらフランス革命前夜のようで……。ここはこう叫ぶしかないでしょう。
「勇敢に進め!! オレがお前達を勝たせてやる」
「「「おう!」」」
今度こそ決まった! ジャンヌ・ダルクはフランス革命じゃないが、ここは悪い王を倒しに行こうか。正義の味方のフリで、救国の王子様を気取ってみてもいい。だって、チートなんだから。
カミサマにもらった力は、人々に使わないとね。この世界の改革のために呼ばれたなら、徹底的にオレが過ごしやすい世界に変更させてもらう。
突き上げた拳に掛け声が上がり、人々は武器やフライパンを手に集まった。そんな彼らの先頭に立ち、オレは黒豹にまたがる。
この微妙な光景、チートなのにいまいち締らないが仕方ない。元がニートだ。頑張ったって、足りない感じが滲み出ちゃうもんさ。
そんなオレの後ろに現れたマロンが『背に乗るなら馬でしょ』とどっかの塾講師みたいなセリフで、後ろに乗れと騒ぐ。ヒジリから乗り換えると、確かに馬はしっくりきた。拗ねた様子のヒジリを手招きし、彼に先鋒を任せる。
「誰より信頼してる相棒だから、先鋒を任せられるんだよ」
城の広場に浮かんでは消える魔法陣は、砂の下に並べられた石材に刻まれていたらしい。次々と現れる南の正規軍を数えながら、ヒジリの黒い毛皮を撫でた。
『我だから、か?』
「そう、ヒジリだから。オレの名をもつ唯一の聖獣だろ」
他の聖獣はすべて色からイメージした名前だけど、ヒジリだけは違う。特別な聖獣だと持ち上げて、やる気を引き出した。ぶわっと空中で大きくなった聖獣に、後ろの住民から大声が上がる。
「ヒジリは連中を片付けて。コウコも戦闘開始、暴れていいよ」
正規軍へ向かって飛び込む聖獣に、恐れをなして逃げ回る兵士は気の毒だが、嫌ならさっさと寝返ってもらおうか。その辺の交渉はノアやジャックに任せ、オレはマロンに囁いた。
「戦闘状態になったら、オレを真ん中に落としてくれ」
『……ご主人様らしい無謀な作戦です』
ぼやくが、お前……そんなに長くオレといないだろ。鬣にしがみついたオレを乗せたマロンは、嘶いてから走り出した。敵の真っ只中に飛び込むが、彼はオレを下ろそうとしない。
「ちょ! マロンが危ないだろ」
『お忘れでしょうが、私も聖獣です』
そうだった、ただの野良馬じゃない。近づいた兵を蹴飛ばし、踏み潰し、噛みつき、マロンは予想外の戦力として敵を蹴散らした。ここで魔法じゃなく、物理で戦うところがマロンだよな。
『主殿、行きますぞ』
ヒジリの号令で、慌ててマロンが少し浮く。その足元、砂の下にある石床の裏に刻まれた魔法陣が崩壊する。床ごとごっそり抜け落ちた穴は大きい。転移させられた兵が逃げる間もなく落ちた。
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