182.正規兵との激突!(2)

「彼でいいか?」


 連れてこられたのは、さきほど門の入り口で座り込んでいた青年だった。まだ若い。ゴツい傭兵に囲まれて怯える彼に、視線を合わせてにっこり微笑んだ。


 緊張を解そうとしたのに、顔を赤らめるんじゃない。そういう意味も趣味もないから。


「この街の門についたのは何時頃? 夜明けとか、大体の時間を知りたいんだ」


「着いた時はまだ暗かった、です。門を開けてもらえなくて、突き放すように死ねと言われたのが夜明け直後でした」


 聞きたかった情報は聞けたので、兵士は連れてって解放してもらった。夜になる前に彼らを追い払った。道に不慣れなオレ達だって半日以内に着いたんだから、地元の兵士はもっと早く帰れただろう。夜明け前の暗い時間、すでに王宮へ連絡が飛んでいた。


 兵士の中に階級持ちが混じっていたら、手紙だけ転送するのは難しくない。砦が落ちたことと、オレ達の簡単な編成を知らせるのに、報告書は1枚でよかった。


 街の外門へたどり着いた時点で、その男だけ回収された可能性がある。ぼそぼそと小声で呟いたオレの考えに、ノアが淡々と指摘した。


「転移魔法の痕跡なら、聖獣殿が追えそうだ。それと、先ほど捕まえた貴族の中に見覚えのある奴がいた」


 南の国の出身者ではないノアが「見覚えある」なら、それは砦でそいつの姿を見たのとイコールだ。にやりと笑ってスノーを手招いた。


「聞いてた? 転移魔法の痕跡追うのは誰が得意?」


『私が行ってきます』


「頼むね」


 小さな頭を撫でてやると、嬉しそうに空へ羽ばたいた。あ、空から移動なんだ? てっきり影に飛び込むのかと思った。


 レモンをすべて切り終えたノアは包丁をしまい、オレは空腹に鳴る腹を撫でた。


「ご飯作ろうか」 


 腹へった。そんな呟きに、住民達の切羽詰まった声が重なる。


「もう来たぞ! 正規軍だ」


 国境付近の城塞都市だ。当然転移魔法陣が常設されていると思ったが、思っていたより向こうの動きが早かった。用意できた部隊から順次送るつもりかも知れない。


「逃げろ、殺されるぞ」


「どこへ逃げるのよ!!」


「そうだ、戦え」


 逃げろと叫ぶ年長者と、もう無理だと諦める声をかき消すように、フライパン片手のおばさんが叫んだ。逃げる場所はないと告げる彼女の逞しさに、気づけばオレも口を挟んでいた。


「戦え、オレが味方してやる」

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