15.訓練は、三途の川原でした(5)

 窓ガラス……あれは換気用の窓だ。つまり完全な地下じゃなく、この部屋は1/4ほど地上に接しているらしい。外から狙っているとしたら、暗い部屋の中はさぞかし見づらいだろう。


 にやりと笑みを浮かべた。一番近い棚の影に転がり込み、置いてある銃の間を探す。筒状の物を手にすると、手のひらを当てて確認を済ませた。


「……狙撃はライアンだったか。最初の犠牲者だ、くらえっ!!」


 埃だらけの床を転がりながら飛び出せば、追う様に銃弾が床で跳ねる。当てていた手のひらを外して、銃身が覗く窓へ向けて筒をかざした。


 明るい光がライアンのスコープを焼く。咄嗟に目を閉じたのか、ライアンが叫ぶ声が聞こえた。懐中電灯の光は指向性が強く、正面から見ると意外と明るい。


「っ! 離脱する」 


 ライアンの撃退終了だ。狙撃用スコープは、暗いところから明るい場所を狙うように設計されていることが多い。なぜなら狙撃手が身を潜める場所は暗く、敵は明るい場所で光を背負っている確率が高いからだ。夜間の襲撃にライアンが狙撃に立ったとしたら、まだスコープは同じタイプを使用している筈。


 予想が当たったらしく、彼は離脱を宣言した。


 次は誰だ?


 再び棚の間に身を隠し、ひとつ深呼吸して息を整える。つうか、朝ごはん食べてない。気付いてしまうと、突然お腹が空いてくるものだ。


 棚に非常食が置いていないか探すも、残念ながら保管場所が違うらしい。何もなかった。代わりに飾りのないナイフを見つけた。


 見たことがある形だ。確か日本兵が小銃の先につけていた、銃剣だっけ? あれによく似ていた。単独で並んでいるのだから、きっと単体で使うのだろう。1本手にして重さを確かめるように上に放ると、すとんと刃を下に落ちてきた。


 もしかして……投げて使うのか?


 先ほど拾ってベルトに差したナイフは柄に飾りやつばが広く、相手の刃を食い止めやすく作られていた。それに比べ、目の前の短いナイフはシンプルで鍔もほぼない。


「とりあえず、もって行こう」


 使い方が多少違っても、敵を撃退できればいいわけで。深く考えるのを止めて、腰に巻くベルト付きケースごとナイフを回収した。西部劇の銃ホルダーに似た革のケースを腰に巻いた。


 ……やばい、穴が足りない。革ケースは大人用らしく、一番短い場所にあわせてもずり落ちそうだ。引き抜いたナイフの先で、ちょっとケースのベルトを切って加工した。


 ぴったりの長さに調整し、一息ついた。

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