60.聖獣の得意分野(2)

「ありがとう。じゃあ、左右の塹壕に分かれて合図を待ってて」


 地図をたたみながら告げると、ジークムンドが慣れた様子で傭兵達を二つに分け始めた。ところがジャック達と数人が別に集まっている。


「おれはお前と行くぞ」


「当然だな」


 ジャックもライアンも、当たり前のように言い切った。ノアはお茶のカップを手渡してくれる。当然一緒に来るつもりだろう。


 ライアンなんて狙撃手だから、本当は塹壕の方が活躍できるし安全だ。それでもオレと一緒に囮になると覚悟を決めてくれた彼に、感謝しかなかった。


「サシャは動けるのか?」


 コウコとの戦いの後で治癒魔法を限界まで使ってくれたサシャは、出来れば安全な塹壕側に回って欲しい。戦場に本当の意味で安全な場所なんてないが、囮より生き残れる確立が高いのは事実だった。


「おれもキヨと行くぞ」


 ぽんぽんと頭を叩くサシャの手は温かく、断りづらくて困ってしまう。表情を読んだのか、サシャが付け足した。


「置いていったら怨むぞ」


「わかってる」


 こう返事するしかない。苦笑いになるが、彼に肩を竦めて了承した。ブラウが影から出たり入ったり落ち着きなく動き回っていたが、突然話に割り込んでくる。


『塹壕の準備ができたよ』


「おう、ご苦労さん」


 元通り大きな化け猫サイズの青猫を撫でたオレが顔を上げると、ジークムンドが親指を立てた。


「組み分けは終わった。塹壕へ向かうぞ」


「任せるよ、ジーク」


 他の連中も移動するのを見送り、ふと思い出して振り返る。ジャック、ノア、ライアン、サシャの4人に加え、首にはコウコ、足元にブラウ。先に移動したヒジリが囮地点で待っている。


「ところで……レイルはどうするの?」


「おれの仕事は、お前へ本国の指示を伝えること。そこからは自由行動だな」


 もう仕事は終わったと告げる彼は、オレ達を他所にどこかへ通信をしていた。イヤーカフから聞こえる声に返答し、何かを指示したようだ。


「オレが指揮官だって吹聴してくれる?」


「出世払いが高くつくな」


 くつくつ喉を震わせて笑うレイルだが、無造作に収納口からナイフを取り出した。鞘を抜いて刃の状態を確認し、ベルトのホルダーに収める。続いて銃を点検してから右手に残す。


「もう噂は流し終えた。ほら行くぞ」


 塹壕の両端が合流する地点を指し示し、彼は先に歩き出した。血を浴びたような真っ赤な短髪を無造作に掻いて、あっさり背を向ける。後ろを走って追いつき、隣に並んで顔を覗いた。

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