60.聖獣の得意分野(3)

「……照れてる?」


「照れてない」


「らしくない自覚はある?」


「うるさい」


 白金の髪をぐしゃぐしゃに乱された。手荒な所作にノアが顔を強張らせるが、文句を言う前にオレの表情に気付いて口を噤む。笑いながらレイルの手を受け止め、掴んで強引に手を繋いだ。


「なんだかんだ、レイルって優しいよな」


 身内認定が厳しい人だと思う。かなり選んで、試して、気に入るととことん甘やかすのだ。一度身内だと認めてしまえば、どこまでも助けてくれるタイプだった。面倒見がいいのだろう。同時に敵に対しては一切容赦しない怖い一面もあった。


 すごく付き合いやすかった。オレにとって、裏表がはっきりした人は相性がいい。しかもオレは面倒を見るより、見てもらう方が向いているというか……面倒をかけてフォローされる種類の人間なのだ。


 自分勝手に思いつきで動いて、尻拭いしてくれる人を周囲に配置している。無意識なんだろうけど、この世界に来てからオレの側に残ってる人って、みんな面倒見がいい連中だった。


「生意気なんだよ」


 ぐしゃっとまた頭を手荒に撫でられる。文句を言いながらも繋いだ手を振り解かないあたり、本当に身内に甘い奴だ。子供の外見を上手に利用してる自覚はあるが、それに騙されるほどレイルもバカじゃない。オレを認めてくれる奴が多い世界は、かつてなく幸せだと感じた。


「うわぁ……ぐしゃぐしゃじゃん。折角の美貌が台無し」


「自分で言うな」


 気軽に言い合える関係は兄弟みたいで、居心地がいい。乱れた髪を手櫛で直し、コウコが絡みついた首より高い位置で結び直した。そういや、コウコはレイルが手を伸ばしても噛んだりしないな。


 様子を窺うと、どうやら半分寝ているらしい。爬虫類は詳しくないが、寝るときも目を開けている。ただじっと動かないから、寝てるのかな? と判断するだけ。猫もそうだが、基本的に動物は睡眠時間長いと聞くから蛇も同じだろうか。


「この辺か」


 ぐるりと見回した少し小高い丘は、身を隠す場所がないので目立つ。先に来ていたヒジリの耳の間を撫でながら塹壕の様子を確認した。左右に広がる塹壕は一辺がこちらに向いているので、上から真っ直ぐに状態が確認できる。


 すでにスタンバイした連中が、武器の手入れや準備を始めていた。


「ヒジリ、お疲れさん。あのさ……ちょっと小さな土山作れる?」


 拾った木の枝でがりがりと絵を描いてみせる。


『他愛ないことぞ』


 ヒジリが見つめる先で、ぽこっと土が盛り上がる。あっという間に、丘と呼べる土のドームが出来上がった。広さは20坪くらい? まあ、2階家の面積くらいかな。


 出来上がった丘の上に、ちょこちょこっと細工を施す。最後に塹壕の上と丘の手前に結界を張れば、準備は終わりだった。

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