252.男装した陛下の女装(1)

 クリスティーンを含む数人の女騎士がテントに入り、侍女もついていった。大量のお土産化粧品を渡し、道で見かけるたびに「似合うだろうな」とにやつきながら購入した服も差し入れた。


 サイズが合わなかったらごめん。先に謝るのも忘れない。何しろ女性のスリーサイズは未知の世界なのだ。異世界より怖い。ぶかぶかすぎるの渡したら「こんなに太ってると思われた」と気分を害しそうだ。逆に入らないと無言で殴られる……。


 自在に伸び縮みする服はない物だろうか。そわそわとテントの前を歩きながら、いつ出てくるかと胸を高鳴らせた。素揚げにした手も元に戻ったし、唐揚げはもう仕上がっている。黒酢餡かけも完成し、温め直して掛けるだけ。


「なんだ? 皇帝陛下様の女装が気になってんのか?」


 事情を知らないジークムンドから見ると、さぞ奇妙だろう。親しすぎる面はあっても、オレとリアムが同性だと思ってるんだから。友人の女装姿に落ち着きをなくすボスの姿に、困惑してるんだと思う。


 オレの心境としては、女性服や化粧を我慢してきた恋人が着飾ってくれるのだ。興奮しないわけがない。しかも服や化粧品はオレの土産なので、センス悪いと思われてないか心配だ。


 だが事情を教えるわけにいかない。ぐっと堪えて頷くだけに留めた。この辺、大人の対応だよな。


『主殿、食事を所望する』


 帰ってこなかったくせに、戻るなり食事の催促か? 聖獣のご飯って、餌と呼んだら失礼なんだろうか。現実逃避を兼ねて、多少失礼なことを考える。手の治療は助かったし、素直にお礼の唐揚げを皿に乗せた。


「コウコは?」


 一緒に帰ってこなかったのか。そんな思いで首をかしげたオレに、ヒジリは驚いた顔をして周囲を見回した。


『戻っておらぬのか』


「はぁ??」


 コウコを見てないから聞いたんだぞ。でもヒジリが知らないとなると、どこへ行った……まあ、用があったら呼ぶからいいや。無理に呼びつけることもないし、四六時中一緒にいる義務もないんだ。彼女がしたいことや行きたい場所を制限する気はなかった。


「そのうち戻ってくるだろ」


『危険があれば、影に飛び込むであろう』


「簡単そうに変なフラグ立てないで。これ以上ドンパチしたくない。もう中央の国に帰って、大人しく勉強したり鍛錬しながら貴族の反逆者を片付けるんだ」


 ムッとした口調でそう告げると、ヒジリは『妙なことを』と呟いた。


『大人しい者は貴族の反逆者を片付けないと思うぞ』


「そこは触れるな」


 ドントタッチミーだ!

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