178.国のために戦ったのに、見捨てるの?(3)

「だが」


「計画が……」


 にやりと笑って、仲間を振り返った。真っ赤な瞳に気づいて、傭兵達が数歩下がる。赤瞳の竜―― 属性の中で最強を誇り、赤瞳が発現すると狂うと言われる赤い瞳を向けられ、彼らの本能が恐怖に慄くのがわかった。


「援護は許してあげるから、逃げてきた兵を片っ端から捕まえて保護しておいて」


 まだ口調は普段の調子を崩さない。不思議なことに、前に暴走した際の高揚感と、普段の自分が同居していた。


 魔力が昂まって吐き出したいのに、仲間がいる場所だからと自制が働くのだ。誰でも彼でも殺したいと思った暴走と違い、きちんと感情も制御できている気がした。


「大丈夫、まだ暴走してないから」


 その言葉に、一番最初に反応したのはジャックだった。暴走して手がつけられないオレを、彼は知っている。シフェルが止めに入るまで、必死でレイルと対峙したジャックはオレの余裕に気づいたらしい。


「わかった。行ってこい。ただし……無理だと思ったら合図しろ」


 何を言われるのかとぱちくり目を瞬いたオレに、ジャックは威圧に引きつりながら口角を持ち上げた。


「迎えに行ってやるよ。まだガキだから、な」


「ふーん、それなら帰りはジャックの肩車を希望するよ」


 くすくす笑って、軽く返した。顔を上げて数歩進めば、前を塞ぐ傭兵達が道を開けた。今のやり取りで、オレが冷静さを失っていないと判断したのだろう。戦場でぴりぴりした状況を生き抜いた彼らは、己の感覚を信じた。


 ぴたりと隣に寄り添うヒジリの上に飛び乗り、掲げた右手をひらりと振った。無言で行われた戦闘開始の合図に、傭兵達も銃を抜いて構える。ひらりと空に舞い上がった赤蛇が、見る間に巨体を露わにした。


 空の覇者である龍の鱗を煌めかせ、コウコが魔力を高める。口を開いて炎をちらつかせると、そのまま砦へ向かった。


 ヒジリが勢いよく走り出す。慣れた黒豹の背から振り落とされる心配はない。脚でしっかりヒジリの躍動する筋肉を感じながら、波打つ背に身体を添わせた。


「うわぁあああ!」


「なんだ、あれは」


 騒ぐ門の声が聞こえ、コウコが大きく身をくねらせた。吸い込んだ息を吐くタイミングで、大きく炎を叩きつける。地上の表面を舐めた火炎が、黒く炭を残した。手加減しているのだ。本当なら、石造りの門を溶かす高温を操る龍だった。


 南の国建国以来の災難は、こうして降って湧いた。

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