10.保護者達の眠れぬ夜(4)

「そ、れ、で?」


 一言ずつ区切る声から怒りが滲んでオレを責めていた。威圧感たっぷりの声に、下を向いたまま言い訳を始める。


 砂利の上に正座したオレは、痺れはじめた足をもぞもぞ動かした。


 やばい――血が止まってきてて、じわじわする。


「えっと……ちょっと楽しくなって、軽くぶっ放したら穴が開いて」


 ちらり視線を向けた先、この戦場で本部として使われていた建物がある。正しくは、本部である建物の『瓦礫』が積まれていた。


 そう、煉瓦の建物は崩壊している。見事なほどに粉々だった。


 大きな穴が開いた正面玄関付近は黒い煙が立ち上っているし、左右対称シンメトリーの建物の右側は黒く焼け焦げている。かろうじて左側は火事を免れたが、形が分からないほど崩れていた。


 敵はすべて退けたが、どうみても敗戦した本部の様相を呈している。他の建物が無事だっただけに、瓦礫は余計目立った。





 原因であるオレはもちろん、お目付け役のノアも隣で項垂れている。巻き込んで、本当に申し訳ないが……正直、一人で叱られないで済むのは嬉しい。


 並んで座ったノアは正座せず、胡坐を組んでいた。


 ……くそ、オレも胡坐にすればよかったのに。叱られて反射的に姿勢を正した際、つい正座した己の条件反射を恨む。


? 言葉が違うのではありませんか?」

 

 ブロンズ色の髪を揺らして腕を組んだ青年の言葉がぐさりと刺さった。


 すみません、自覚はあります。軽くなかったと思います。


「そもそも、そのバズーカ砲はどこから……」


「敵から奪いました!」


 敬礼したノアの報告に、シフェルの後ろにいたジャックが項垂れる。それはそうだろう。敵襲で本部を守る筈の部隊が、敵から奪った大型兵器を使って本部を破壊したのだ。


「ごめんなさい。オレが悪い」


「そこは否定しません。ですが、ノア。あなたは止めるべき立場でしょう」


 子供の特権とばかり謝ってみたが、シフェルは誤魔化されてくれなかった。


 敵が構えたバズーカ砲を見つけて奪ったのはいい。そのバズーカ砲を持っていた敵を排除したのも正しい。どうしてその砲を自軍の本部へ向けたのか――ここが問題だった。


「使ってみたかっ……じゃなくて、逃げる敵を撃とうとしたら、そのっ、あの……」


 間違えて撃った。


 言い訳としては形が整っているが、見透かされていた。それはもう完璧に、シフェルはオレの本音を読んでいたのだ。


「そうですか――逃げる敵が、一番厳重に警備されている本部の玄関へ向かった? それを撃ったから悪くない、と? 玄関はジャックを含めた味方がいたのに?」


 顔を近づけて、言い聞かせるように『言い訳』を先取りされる。

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