63.次の戦場までに簡単クッキング!(2)

「テント保有者は準備して」


 収納魔法は20人くらい使えるが、たぶんこの戦場でテントを持ってこれるほどの容量がある奴は少ない。オレが知っている限りで、レイルとノアだけ。見回すと、他にも収納能力のある奴がいたらしい。テントの準備が始まっていた。


「レイルとノアも用意して。オレの方は……ジャックとライアンに手伝ってもらう」


 自然とサシャはノアの手伝いに回った。このグループは本当に仲がいい。オレが2人も手伝いを要求したのは、テントが2張りあるからだ。


 収納魔法の口を低い位置に出して、しゃがんで手に触れたテントを引っ張る。外に出た部分をジャックが一緒に引いてくれたので、後半はすごく楽だった。骨組みを一式取り出すと立ち上がる。


「ライアンはこっちでお願い」


「おう」


 ライフルを肩にかけた金髪の青年が近づいてきた。一緒に移動してから、また収納口を開いてテントを取り出す。先日大量に入ることに驚いたシフェルによって、大量の資材や弾薬を持たされた。幸いにして聖獣3匹と契約して魔力量が増えたため、負担は感じない。


 収納魔法もイメージだけで作ったので、オレの収納量は無限に近い。収納魔法は別空間だから際限なく何でも入り、中では時間が止まる……と思っていた。というか、映画で見た収納魔法はそのタイプだった。だから素直に出来ると思って試してしまったのだ。


 西の国に攻め込む前にシフェル達に容量の異常さを指摘され、初めて自分の魔法が規格外だと自覚したほどだ。まったく気付いていなかった。


 しかも中途半端な知識だったため、中の食料品は数ヶ月すると腐る可能性がある。中の時間を止める認識が甘かったのかも知れない。保管したパンにカビが生えたので、時間は確実に動いている。


「テント足りたかな~。足りなければ持ってくるか」


 転移魔法陣が一組余っているので、気軽に提案した。取りに戻れば何でもあるし、考えてみれば転移魔法陣をつないで食料品や物資を送り込んでもらったら簡単じゃないか!


「どこから持ってくるんだ?」


「転移魔法陣を繋いで、物を送ってもらえば」


「「「はぁ?!」」」


 あ、またこの展開か。今回はどこが「非常識」呼ばわりされるやら。


「転移魔法陣を何に使うか理解しているか?」


「え? 物や人の輸送だろ」


「……異世界人だったな、キヨ」


 諦めたような顔で溜め息をついたライアンが、くしゃりと髪を乱した。この世界の奴はやたらとオレの頭に触れるが、何か意味があるのかな。今度リアムに聞いてみよう。もしかしたら親愛を示す行為かも知れないから。

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