198.マロンの新しい能力(4)

「マロンは、どうやって巣穴から追い立てたんだ?」


 ドラゴンを指差しながら尋ねると、得意げに胸を逸らして首を持ち上げにやりと笑った。ように見えるが、馬なのでちょっと自信ない。


『決まっているでしょう、操ったのです』


「じゃあ、オレの命令と一緒じゃん」


『全然違うよ、主』


「どこが?」


 操ってる点は一緒だろ。本気で分からなくて、右にも左にも首を傾けた。薄暗くなる森の中は、徐々に気温が下がってくる。ヒジリから下ろしてもらったスノーが、飛び上がってオレの膝にしがみ付く。変温動物だからな。


『主様のいうとおりですよ、問題ありません。空飛ぶトカゲじゃないですか。さくっと自我を奪って襲わせなさい』


 お前、自分が蜥蜴の一種だと自覚してないな? 同族を切り捨てる考え方は怖いぞ。聖獣は自分たちは別格な生き物だと思ってるんだろうか。以前にヒジリもそんな発言してたな。


 唸りながら、一応注意しておく。ペットの躾は飼い主の義務だからな。


「スノー、お前もトカゲだろ」


『違います!! 全然違いますよ。奴らは翼があるトカゲ、私は聖なる白トカゲなのですから』


「ああっと、その……悪い。でもドラゴンはトカゲだと思うんで、あまり差別しないでくれ」


 差別は良くないと告げれば、スノーは心底不思議そうに金瞳を瞬いた。


『でも王都の襲撃に使う駒ですよね』


「そうだよ」


 だんだんと自分の言動の影響なのでは? と心配になった。見つめ合うスノーとオレ。そこへ何故かマロンが鼻先を突っ込む。


『ご主人様の考えに従います! だから、そんなにスノーと仲良くしないでください!!』


 嫉妬されたらしい。よく分からないが、あれかも……子猫を膝に乗せると、先住猫が嫉妬する現象だ。実家で経験した事例に当て嵌め、よしよしとマロンの鼻の上を撫でた。


 待てよ、その理論だと逆だ。先住猫に構ったら、新しく飼った子猫が……どっちでもいいや。考えるのに疲れて放棄し、マロンに改めて命じた。


「王都の上を旋回させて、パニックを引き起こしてくれ。直接人間を襲うのは禁止だけど、建物を多少壊すくらいはしょうがない」


『建物を壊しながら飛ぶことで怯えさせるのですね』


「理解が早いな」


 褒めてやり、複雑そうな顔をしたヒジリの耳の間も掻いてやった。ぴくぴくと揺らした耳に、作戦を聞かせる。


「オレ達が敵で攻めてくると噂を流す奴がいる。街の連中が信じてるとしたら、いきなり住民に攻撃されちゃうだろ? だからオレ達は味方であることを印象付ける必要があるんだ」


『つまり主殿は……人間を攻撃する気はないのか』

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