198.マロンの新しい能力(5)

『主、それって自作自演……?』


 ブラウが首を傾げて記憶にある言葉を口にした。それは誤解だぞ、断固として訂正させてもらう。


「違う、仕込みみたいなもんだ」


『あ、ヤラセだ!』


「せめて、演出と呼んでくれ」


 きりっとした顔で言い合うオレ達は無視された。その間にヒジリは吹っ切れたらしい。尻尾の振り方が派手になった。本当に犬にしか見えない可愛い奴だ。


「建物の屋根とか少し壊せば、焦るだろう? でもこの世界で竜殺しの英雄はオレだけ。つまりオレが傭兵達と助けに飛び込めば、ほら正義だ!」


「いや、悪そのものだろ」


 ぼそっと突っ込む声はレイルだった。短い赤毛をくしゃくしゃ掻き乱しながら、でっかい溜め息を吐かれた。


「大急ぎで戻って正解だったぜ。ったく、ろくなこと考えねえガキだ」


 口で言うほど叱る気はないようだ。オレの頭を撫でる手は優しい。羽織ったジャケットのポケットから小さな箱を取り出した。


「お姫様からの返信だ。俺は伝書鳩じゃねえぞ」


「ありがと」


 素直に受け取り、大急ぎで開けた。驚くほど大きな青い宝石だ。前後左右から向きを変えて眺めていると、苦笑いしたレイルが手を伸ばす。避けようとした箱から宝石が転がり、掴んだのは銀鎖だった。


「え?」


 宝石の大きさに目が入ったオレだが、これはペンダントだ。すっぽり頭から被れる長い鎖を首にかけ、改めて宝石を眺める。透き通って不純物が見えない上級の石だった。気のせいかな、どこかで見たことがない?


「これって」


「魔石だよ。ピアスサイズだって、ちょっとした貴族の年収くらいするだろうな」


 ピアスの石が爪の4分の1くらいだから……ざっと目算で数百倍ありそう。形は楕円形で裏からたくさん光を取り込めるよう複雑なカットが施されていた。


「魔力が不足したらと心配なんだとさ。ちなみにシフェルは猛反対した」


「だろうね」


 金額を考えても、オレだって反対すると思う。だがそんな予想を覆す裏話が出てきた。


「それ、国宝らしいから無くすなよ」


「こ、く、ほぅ?」


 それって国の宝……そこで既視感の正体に気づいた。リアムの王冠だ。あの王冠に付いていた! たぶん、きっと、おそらく!!


「王冠の魔石?!」


「お、よく気づいたな。帰ったらよく礼を言えよ」


 レイルは煙草を取り出したものの、咥えても火をつけなかった。森の中なので気を使ったのか、話の最中だからやめたのかも。


『あのご主人様、もうドラゴンを飛ばしても?』


「明後日にしろ。明日まで俺の仲間が潜入して煽る予定だ」


 すでに情報戦は仕掛けられている。互いに互いの評判を落とす話を流すのだから、南の王都の民はさぞ大変だろう。首を縦に振る金馬は承知したらしい。


『明後日の早朝、飛ばします』


 マロンの新しく発覚した能力は、ちょっと卑怯だが最強のジョーカーだった。

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