244.絶対の意思表示が大切だろ(3)

 にやりと笑って、答えだけ突きつけた。シフェルは賛否を避け、アーサー爺さんを見つめる。彼が頷くのを確認し、オレに何か伝えようとした。


「オレは帰る。ダメだって言っても、傭兵置いて単独でも帰る!」


 いざとなったら転移も出来る。座標が怖いから、聖獣の誰かに先に確認してもらうけどね。


「いいでしょう。ちょうど一段落しましたし、帰って構いませんよ」


 シフェルが意外なほどあっさり許可をくれた。盛大なフラグは折れたと見ていいか。帰れるんだよな? 帰っていいんですよね!


 口に出して台無しになるのが嫌で、目で訴えかけた。頷き返すシフェルに飛びつく。が、血の臭いがしたので飛び退って離れた。


「おま、血のにおい?」


 ケガでもしたのか、いや返り血だろうな。その予想は当たったらしい。


「抵抗する者がいましたので、少し……ね」


 意味ありげに濁すなよ。怖いだろ。何人やっつけたんだ? でも聞かない。余計な発言ひとつでフラグが戻ってきそうだから。


「よし、それじゃ指示を出すからよく聞いて。ジャック班はアーサー爺さんの補佐を頼む。ジークムンド班は奴隷だった人を連れて帰路についてくれ。この国の守備は……うーん、アーサー爺さんに任せる」


 ここで傭兵達を残していく選択肢はない。


「オレはレイルと合流して、それから聖獣と一緒に先に帰るから。あとはよろしく」


 敬礼すると、反射的に騎士達が敬礼を返した。傭兵達もだらだらと敬礼もどきや挨拶をよこす。これでオレは責任を果たした。南の国どころか、東まで制覇したし。


 ヒジリの上に跨り、少年姿のマロンを前に乗せた。当然のようにスノーが肩に飛び乗るが、ブラウは影の中から顔だけ覗かせる。歩いたり走る気はないらしい。コウコを探すと、まさかのベルナルドの腰に巻きついていた。


「コウコ、なぜそこ……」


『ここ、温かいのよ』


 そりゃそうだろうけど、一応異性の腹……ん? 異性じゃないのか。聖獣は性別ないからな。にしても、すっかりベルナルドに懐いてしまった。彼もあまり気にしてないので、このまま引き取ってもらってもいいぞ。


「お先に」


 一声掛けたオレが促し、ヒジリが走り出した。なんでも魔力の匂いで居場所がわかるんだと。聖獣って何でもありだな……分裂した神様だけに、ほぼ万能だ。走る黒豹を追いかける形で、ベルナルドが護衛についた。


「ベルナルド、キツくない?」


 騎乗してるが、ヒジリが結構速い。馬が首を前に突き出してるのって、競馬の時と一緒で速く走ってる証拠だろ。


「そうですな。もう少し落としていただいた方が助かります。我より馬がもちませぬ」


 だよね。空気の読めるヒジリは、速度を2割ほど落としてくれた。街の外にあると思ったレイルのアジトは、意外に近い。街の路地をいくつか曲がった先で、ヒジリは突然速度を落として止まった。


『この建物だ』


「……ここって」


 見上げたのは、くたびれた古い教会。この世界に宗教はないから、オレが知るファンタジーの教会もどきだった。

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