230.黄泉がえり、って言わない?(4)
「あれは……」
「獣じゃない!!」
目を凝らして呟く間に、ジャックが銃を抜いて馬の腹を蹴った。全速力で走る馬だが、やはり新雪の上は走りにくい。ずぽっと脚がハマって転がり、一回転したジャックも腰まで埋まった。
うん……途中までいい感じだった。映画の佳境って感じで、お姫様を助けに行く騎士みたいな意気込みもあったけど。馬は前脚沈んで転び、馬上の人は腰まで埋まったわけだ。
諸行無常って、こういう場面で使える?
「ジャック、先に行くぞ」
「え? こら、キヨ助けろ」
叫ぶジャックを置き去りに、マロンは器用に雪の上すれすれを走る。そう、聖獣って空を飛べるわけ。でもってマロンももちろん走れる。埋まる寸前の雪の上を軽やかに走った。
後ろの連中は置き去りだが仕方ないと思ったら、根性でベルナルドが追い縋る。ちょっ、すごい操馬技術だぞ? 馬が飛び跳ねながら硬い地面を見つけて追いついてきた。
苦笑いしたレイルは煙草に火をつけて一服しながら、ひらひら手を振って待機を宣言。こういう展開は、本当に性格が出るよな。
『主殿、人間だぞ』
『死体泥棒だぁ』
『凍らせてもいいでしょうか』
先に到達したヒジリが唸り、茶化したブラウがマロンの上に飛び乗る。自分で雪の上を走りたくないのだろうが、お前も聖獣だから空中を走ればいいんじゃないか? ブラウ。
スノーは殺る気満々の発言を控えるように。見た目は小動物系の愛らしさなのに、どうしてすぐに攻撃したがるんだ? 前の主君がよほど好戦的だったのかも。
「ひとまずステイ」
動くなと命じる。ステイの時は攻撃されたら反撃OKと説明しておいた。つまり一時停止状態だ。相手がバカでなきゃ、オレが行くまで現状維持だが……こんな場所にいる奴が賢いわけなかった。
「くそっ、見つかったぞ!」
「ガキだけか。殺せ」
「早く掘り出せ、急げ」
奴隷なのかな? 薄着の少年とも青年ともつかない年齢の連中が、鎖付きでスコップ持たされていた。必死に掘り起こす彼らの近くで、偉そうなデブが雪にハマっている。ジャックより派手なハマり方は、間違いなく体重のせいだろう。
それから3人の取り巻きらしき男がいる。年齢はまちまちで上は60歳代くらい、下は偉そうな豚さん体型と同じ20代後半か。奴隷っぽい5人ほどが一番若い。
「どう思う?」
『死刑』
「そうじゃなくて、あの子達は奴隷なの?」
物騒なスノーの断言を止めながら、首を傾げた。追いついたベルナルドが、息を整えながら答える。
「奴隷は禁止されましたが、裏では売買が行われているでしょうな。父の代までは普通に奴隷が認められた歴史があります」
なるほど、ベルナルドの父親の代までなら、あの雪に埋もれた太ましい体型のおっさんの祖父は、奴隷を使ってた。そう仮定できる。禁止されても使うんだから、直接奴隷を知ってる世代かなと思ったよ。
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