226.遠ざかる土産、頭上の親子喧嘩(3)

「キヨヒト・リラエル・エミリアス・ラ・シュタインフェルトです。まだオレに殿と呼びかける地位の方が、この国に残っているとは知りませんでした」


 貴族らしく傲慢に、この国の王族が滅びたのに偉そうだな、おい! と告げる。オレの名を確認する前に、自ら名乗るくらいの礼儀はあると思ったが? ジャックの親で宰相だというから、期待したじゃないか。


 苛立ちに目を細めたオレの声は穏やかで、口元は笑みを浮かべた。それを見て、ジャックが「オヤジ死んだ」と頭を抱える。いやだな、それじゃオレが悪い奴みたいだろ?


 先に無礼を働いたのは、呼びつけたそっちだからな。詫びとしてリアムへの土産とオレの希望する調味料を並べろ。量と質によっては許してやらんでもない。心の中で要望を叫んでおく。


『主ぃ、僕……暴れていい?』


『この国は滅びていいと思います』


 ブラウもスノーも物騒な言葉を足元で囁かない。呪文みたいで怖いぞ。のそっと顔を覗かせて無言の黒豹が一番やばそうだった。牙を見せてるのに威嚇すらしない。いきなり噛み付く気がする。


「し、失礼いたしました」


 慌てて臣下の礼を取る父親を無視し、オレは別の人物と交渉することにした。


「前の宰相がいると聞きました。そちらと交渉します」


 現役の宰相閣下はスルーだ。はっきりと言葉と態度で、お前とは交渉しないと示した。青ざめた父親に、ジャックが溜め息を吐く。


「親父じゃだめか」


「オレはね、拾ってくれた恩人を貶す奴と手を組む気はないよ。戦場にいきなり降ってきた、不審者のオレを面倒見たのはジャック達だし。武器をくれたのはレイル。だから当然じゃない。あ、リアムは特別枠ね」


 深刻になりそうな場を、最後にちょっとだけ和ませる。くすっと笑ったのはシフェルとベルナルド、逆に複雑そうな顔をしたのはレイルだった。中央の皇族分家当主、公爵、元侯爵、北の王族……どこの宴ですか? の豪華メンバーだ。そこに我が子が混じっていたからって、オレ達を無視して騒ぐなんていい度胸じゃん。


 国の一角が消えかかっていたのを、止めたのがよくなかった? いっそ半分くらい滅ぼしてやろうか。


 魔王がよく簡単そうに「世界の半分を消し去る」とか発言する意図がよくわかった。その消す部分に自分の大切な人が含まれないと、実感わかないんだ。だからゲーム感覚でそんな発言が出来る。他人事ってやつだな。


「お詫びいたします。どうかお待ちを」


 焦るおじさんをよそに、オレはジャックに言い切った。


「ジャックのお祖父さんの居場所、わかる?」


「領地の屋敷だろうな」


 隠居した貴族家当主なら当然かも知れない。懐かしむような表情のジャックに、一言。


「じゃあ、そっちに向かおうか」

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