207.もっと気楽に行こうぜ(3)
「ちょ、待って。え? 具がない」
慌てて覗き込み、スプーンでかき回す。どろりとしたシチューっぽい汁物は、想像と違った。ガッカリしながら、配る許可を与える。くそ……やっぱり途中でシフェルに呼ばれたせいだ。
ぶつぶつ文句を言いながら、目の前に置かれた器の汁物に八つ当たりする。ぐるぐる掻き回すオレの複雑な気持ちをよそに、聖獣の評判は上々だった。具が溶けていると、味はしっかりしてるのに飲みやすいらしい。確かに舌で舐めながら飲む獣だと、具が混じってるのは飲みにくいかも。
「キヨ、これうまいぞ」
「俺はもう少し塩味濃くてもいい」
調味料のハーブ塩を振りかけるジャックをよそに、ノアはご機嫌だった。サシャは胡散臭そうに眺めていたが、口をつけると一気に流し込む。ライアンはパンを浸して食べていた。
「お代わり」
「俺も」
飲みやすさからパンを食べる際の飲み物がわりにされた汁物は見る間に減った。もう捕虜もいないので、全部食べ尽くしてもいいけど……。ちらりと隣を見ると、ベルナルドが上品な仕草で流し込んだ。
スプーンの扱いはすごく品があったのに、減っていくお代わりに気付いて残り半分を皿から直飲みしたけど……この人、侯爵だったんだよね? 美味しい物食べ慣れてるだろ。こんなシチューの失敗作を流し込まなくても。
呆れ半分で口に運ぶ。適度な塩味とほのかな野菜の甘味……あれ、こんな感じの食べたことある。冷たいやつで、上におしゃれパセリを散らしたスープ。唸りながら思い出したのは、ビシソワーズだった。
確かにジャガイモっぽい根菜類入ってた。それが粉砕されて、さらに小麦粉やバターでトロミやコクがでたのかも。
「キヨ、終わりそうだぞ」
お上品にパンへ染み込ませて食べていたら、ライアンが手招きする。残った鍋がもうひとつあっただろう。そう思いながら残りを口に入れて近づいた。
「ほへはへれはひいひゃん」(これ食べればいいじゃん)
「何言ってるかわからん」
悪いジャック。飲み込むから少し待って。
「お行儀が悪いですぞ」
お前が言うな、ベルナルド。スプーン放り出して流し込んだくせに。
口に詰まったパンが消え、残った鍋を覗くと中に白い汁物が入っている。何が気に入らないんだ?
「こっち食べれば?」
「「「そっちは具が残ってるから違う」」」
口を揃えた傭兵たちの顔を見ながら、内心で「ああ」と納得した。これはあれだ。カレーを前にした小学生の群れ……既視感のある状況に、あははと乾いた笑いが漏れた。
「具を粉砕して……同じ味になるかな」
首をかしげるオレは失念していた。小麦粉やバターの量が目分量だった。小麦粉に至っては袋半分入って、その後にすいとんのなり損ねとして回収されて目分量すら通用しないことを……。
なんとか作った2つめの鍋が不評だったのは、言うまでもない。
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