144.失礼ながら……だったら口を慎め(3)
「……上位者であってもご令嬢を侮辱するのは」
まだ食い下がってきた。あきらめの悪い男だ。ならば、お前が大切にする青ざめたご令嬢の名誉がズタボロになるまで、お相手してやるよ。引き下がっておけばよかったと後悔するのも、自業自得だろ。逃げるための時間も、言い訳もオレは見逃してやったんだから。
「ご令嬢? オレには、身もちの悪い女にしか見えないな。お前みたいにレベルの低い男を侍らせて悦に入る女など、社交界で相手にする意味はない。わからないか? お前が大切だと女を庇うたびに、女の価値は落ちてるんだよ。最初に言っただろ『お取り巻き』だと」
おべっかを使い、主人を持ち上げるだけの太鼓持ち。みれば彼女の後ろには、さらに3人も
きっぱり切り捨てたオレに、ご令嬢とやらが泣き出した。その後ろの男が短剣に手をかけるが、あえて見逃してやる。切りかかれば不敬罪だけじゃなく、親族ごと巻き込んで絶滅させてやるからな。オレの視線の先で、男は怯えるように手を震わせた。
ほら、抜け。抜いてみろ。促すオレの視線に気づいたレイルがじりじりと位置を変える。いつでも飛び掛かれる位置で、すでに飛び掛かろうとしたシンを食い止めていた。
お兄ちゃん、暴走しすぎ。手出しするまで、待て!
『主ぃ、僕……お腹すいちゃった』
空気を読まないバカ発言ではなく、威嚇しつつ低い姿勢を保つ青猫は鋭い爪を見せつけながら舐める。どうやら襲う許可をくれと強請る配下を鎮めるご主人様を演じさせてくれるらしい。珍しく気の利くブラウに声をかけようとしたオレの前に、別の男が滑り込んだ。
「失礼ながら、いささかお言葉が過ぎるかと……」
「だったらお前も口を慎め」
反射的に言い返す。目を見開いた男は、初老と呼ぶには若く見えた。40歳代、男盛りの美丈夫だ。顔立ちは整っており、もう少し白ければロマンスグレーと呼べる髪は撫でつけられていた。額にかかる髪は黒に近い濃茶だ。
相手が名乗るのを待ちながら、オレは記憶の中から名前を弾き出した。
――リーゼンフェルト侯爵、今回の騒動の黒幕と目される大物だ。躾の悪い犬をたたけば、その飼い主が出てくるだろうと踏んだが、本当に出てきた。やっぱり「ざまぁ」系ラノベのテンプレはこの世界でも通用する。
顔の良さを生かした傲慢な態度で応じながら、オレは次の手を打つべく指先で合図を送った。
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