26.魔法は無効、魔力は有効?(4)

「何が気になるのか知らぬが、余はお茶が飲みたい」


 我が侭なお姫様……げふん、げふんっ……麗しき皇帝陛下のお言葉で、傭兵達を残して移動となる。先ほどお小言を口にしていた騎士が付いてきた。


 オレの隣をヒジリが悠々と歩いていることは、言うまでもない。基本的にオレの近くが落ち着くのか、主従の契約とやらに関係あるのか知らないが、ヒジリは離れようとしなかった。


 オレとリアムが部屋を出た後、ジャックとノアは大きく溜め息をついて顔を見合わせ、ライアンは苦笑いしていた。周囲に集まっていた傭兵達も思い思いに散っていき、壊された机を前に「直したそばから壊れていく」と嘆く職人達がいたとか、いなかったとか。







「魔法とは魔力を使って物事を変質させ、移動させ、破壊したり、再生したりする行為だ。魔力は生命力そのものと言い換えることが出来る。魔法は基本的に人や魔獣などの有機物に作用しない特徴があり、これは世界のことわりとして揺るがない事実だ」


 リアムは紅茶にレモンを浮かべ、口元に運ぶ。侍女が丁寧に整えただろう爪は綺麗で、もちろん指先も傷ひとつなかった。銃を握ったり遭難して爪を割りながら這った、小傷だらけのオレとは明らかに違う。


 ちなみに服は着替えさせられた。騎士を従えた仕事服の皇帝陛下の隣に、血塗れのオレが立つのは問題らしい。まあ、見た人の気分が良くないのはわかるので、素直に渡されたシャツに着替えた。汚れた原因はヒジリの餌やりだが……今後も同じ状況にならないよう、対策を考える必要はありそうだ。


「魔法は生き物を傷つけないんだよな? でもシフェルに勉強叩き込まれたときは背中に傷が出来たぞ」


「お前は意外と賢いな」


 褒められたのかな。意外と…の部分に、本音ではバカだと思われてたのかもと落ち込む。目の前に用意された焼き菓子を、足元のヒジリに与えた。肉と違って口をあけて齧る必要がないため、猫科特有のざらついた舌で器用にお菓子を口に運ぶ。


「背中にできた傷は、術によってセイの脳に大量の情報が注がれた『弊害』だ。急速に流れ込んだ情報を整理しきれず、脳が混乱して魔力が暴走した。セイの背を切り裂いたのは、セイ自身の魔力なのだ」

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