32.毒と解毒薬、どっちが苦いか(3)
肩を落とすオレをよそに、リアムは嬉しそうにひとつ口に放り込んだ。もう諦めたので見守るが、硬すぎて口の中で右へ左へ移動させている。それは歯が折れないように奥歯でゆっくり噛むか、飲み物で柔らかくして食べるんだよ……と注意する前に、がりっと大きな音がした。
ばりばりもぐもぐ食べる音が響き渡る。
知らなかった。乾パンを食べる音って意外と煩いんだな。敵地で食べるときは飲み物に浸す一択にしよう。リアムが紅茶に手を伸ばし、ぐいっと一気に飲み干した。お行儀は悪いが、気持ちは理解できる。最初に食べた時のオレの反応と一緒だもん。
前世界で知ってる乾パンより硬くて、口の中の水分を一気に吸い取る。飲み物なしで食べたら、喉が渇いて脱水症状になりそうな食べ物だった。長持ちするのはわかるが、結構危険だと思う。
「……不思議な味だ」
「硬くて美味しくないでしょ。クッキー食べなって」
クッキーの皿を押しやるが、今度は干し肉に興味を示した。うーん、止めるべきなのか。一度味わえば満足するだろうから、好きにさせるか。迷いながら、小さく裂いて差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
裂いた残りを口に運ぶ。2人でもぐもぐ噛み締めているところに、シフェルが戻ってきた。
「レイルさんには連絡が取れました……何を召し上がって、え?」
毒があるから食べるなと皿を下げさせたのに、食事を続行しているオレ達に首をかしげる。まだ干し肉が口内を蹂躙中なので、残った干し肉を指し示した。理解するなり、シフェルの顔が青ざめた。
「もしや……同じ干し肉を裂いて食べたり……?」
頷くと、なにやら口の中で文句を言いながら崩れ落ちる。騎士として皇帝の前で突然床に崩れるのはどうかと思う。ようやく解けた干し肉を水で一気に流し込んだ。
「んっ……どうした?」
「この話は絶対によそでしないでください!!」
両手を握って懇願するように迫ってくるシフェルの勢いに負けて、こくこくと縦に頷いた。なんだか怖い。そんな必死になるような事件、あったか?
「陛下も、よろしいですね?」
疑問系なのに命令のように言い聞かせる器用さを発揮した騎士に、皇帝陛下は無邪気に頷いて笑った。
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