254.風呂は男女別だった(2)

 様子を見に近づいて、湯の中から回収する。オレによく似た子供姿で、真っ赤に茹だった肌が妙に艶かしいのは……なぜだろう。もしかしてオレも同じ?


 数回胸を押すと、ぴゅっと湯を吹いた。やっぱり溺れてやがった。マロンはベルナルドに任せ、オレは脱衣所に戻る。涼んでるレイルは、ワイン片手にご機嫌だった。横に空き瓶が3本あるが、お前、全部飲んだのか。


「どうした?」


「えらい飲んだな」


「そうか。こんなの水代わりだ」


 どこのフランス人だ? これがビールならドイツ人だな。テレビの半端な知識で突っ込みつつ、オレはマロンに水で冷やしたタオルを被せた。よく覚えてないが、冷やせば良かった気がする。風魔法も追加しておく。扇風機がわりになるだろ。


 コウコは乙女だと自称して、リアムと一緒に入っている。風呂としては隣なのだが、当然立派な壁に間を隔てられていた。チート魔法で覗けるんじゃないかと思うだろ? オレも思った。だが我慢だ。見ちゃったら、絶対に鼻血噴くもん。誤魔化しきれない。


 聖獣がついていれば、護衛は問題なし。スパ施設は貸切、こんなにのんびりしたの久しぶりだった。


 砦をひとつ取り返しに行っただけなのに、南の国を攻め落とし、東の国を占拠する。おかげで一週間程度のつもりだった戦場が、一ヶ月近くに延長された。オレとしては、このくらいの褒美は当然だ。


 聖獣が神様の分割した姿だとか、世界の秘密だとか。余計なことを知りすぎたので、まったり休みながら情報も整理したいし。


「ほら、喉乾いただろ」


「おう。ありがと」


 受け取って深く考えずに瓶に口をつけた。ぐいっと飲んだら喉が焼ける。咳き込んで瓶を見ると、ワインのラベルが貼られていた。


「くそっ、盛られた」


「毒みたいに言うなよ。うまいんだぞ、これ」


 白ワインが、火照った体に急速に回る。世界も視界もぐるぐる回り、オレは抗えずに横たわった。ごろんと倒れたオレの視界では、天井の模様まで回る気がする。


「我が君!」


『主殿は酒に弱いのか』


 ヒジリの呆れ声が最後の記憶で、オレはそのまま眠りについた。……死んでないからな? ただ本当に眠っただけだ。それが不思議なことに、半分くらい意識が残ったような感覚だった。外で起きてることが何となく伝わってくるし、理解できる。でも手足が動かないし、目が開かない。


 意識はふわふわと安定しなくて、心地よさだけが残った。

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