276.北の王家の裏事情(2)
重すぎる義家族の愛を避けるため、現在のオレはヒジリに跨っていた。いざとなれば窓を突き破り、客間の外へ逃げる予定だ。威嚇する動物さながら、毛を逆立てて警戒するオレの様子に、じいやが目頭を押さえた。お気の毒にって、思うなら助けろ。
「パパのお膝が空いてるぞ」
「キヨ、お兄様が抱き締めてあげよう」
「こっちにいらっしゃい、子猫ちゃん」
一番怖いのがヴィオラ姉様なんだが……なぜだろう。近づいたら閉じ込められる気がする。それはシンや義父にも感じてるけどね。
「それ以上やらかすと、二度と帰って来なくなるぞ」
ぼそっとレイルが忠告する。愛用の煙草を咥え、火をつけるのは我慢していた。禁断症状か? 外で吸っててもいいぞ……この騒動が落ち着いたらね。
ベルナルドがようやく立ち直り、オレの斜め前に立った。護衛として通常は後ろに立つのがルールだ。この配置は、北の王家が主君に害をなす可能性があると公言したことになる。文句言ったら窓の外に逃げるから。ベルナルドに隠れるようにしたオレの睨みに、最初に心が折れたのは義父だった。
「……可愛い息子ができたと思ったのに、まさか初日で嫌われるとは」
がくりと手を突いて項垂れる姿は哀れだ。とても一国の王には見えない。その隣でシンが半泣きだった。
「キヨ、もう帰ってこないとか言わないでくれ。私はお前の良き兄になって、お兄様と呼ばれたいだけなのだ」
「お兄様は監禁しようとするでしょ? その点、私は安全よ。あなたを愛でるだけだもの」
ヴィオラ姉様、愛でるってもしかして? 収納から取り出したその愛らしいワンピースは、まさかオレに着せる気じゃ? ずるずると後ろに逃げるオレを守ろうと、ヒジリが牙を剥く。
「何にしろ、北の王家はこんな感じだ」
レイルの今さらながらの告白に、もっと早く言えよ! 知ってたら、公式以外の挨拶は拒否してたぞ! と叫んだオレは、本当に監禁されそうになった。二度と北の王家に私用で顔は出さない。自業自得だからな!!
護衛とじいやを見捨てて、自分だけ窓の外に避難したオレは大声で叫んだ。しょげた一家が反省を示したため、仕方なくオレも折れる。近づいた途端に抱きしめられるくらいは、まあ……仕方ないか。
愛情過多な北の王家での顔合わせが一段落したため、オレはすぐさま帰還の転移を試みた。
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