272.真犯人は詭弁がお好き(3)

「オレを投獄して得た情報は共有しろ」


「わかっています。陛下のためですから」


「いつまでも魔法の言葉で誤魔化されると思うなよ」


 ムッとしながら切り返した。いつもそうだ。戦場へ送り込んだ時も、その後の面倒ごとを押し付けた時も。リアムのためだと口にする。実際、すべての国を制覇したからリアムの為になったけど……これって「終わりよければ全てよし」のパターンじゃん。


 今回は用法を間違ってないよな? 声に出したわけじゃないけど、じいやを窺ってしまう。なぜか頷かれてしまい、曖昧に笑っておいた。もしかして、チートで心が読めるオチとかないよな?


「今後の予定は?」


 あの3人は間違いなく見せしめだけど、他にもいたはず。直接餌に食い付かなかった連中の処理方法は考えてあるんだろう? 腹黒近衛騎士団長様だから。


「ウルスラに任せていますが、今回の騒動で動いた貴族はすべて爵位降格とします。その上で、陛下が女性と知って支えようとした家は昇格させました」


ふるいにかけるってやつか。どのくらい……」


 効果が出るのか、どれだけ残ったのか。尋ねようとしたオレは、口を噤んだ。魔力感知の網にかかったのは、近づくリアムと侍女達だ。


「リアムが戻ったから、あとで」


 一斉に全員が首を縦に振った。珍しくシンが口を挟まなかったけど、時間がないことを理解してくれてたのか。レイルは再び菓子に手を伸ばし、オレは何もなかった振りでヒジリに寄りかかった。


「ねえ、シン兄様の仕掛け……使わなくて済んだんだけど」


「え? お礼は貰えないのか?」


「それはちゃんとするよ。使わないのはオレの都合だから」


 にっこりと兄弟の会話を聞かせる。仕掛けがあったのだとシフェル達に突きつけるために。収納に入れていた玉を取り出す。形はドーナツ型で、大きな房が付いている。見た目が綺麗なだけじゃなく、これは王位継承権の順位を示すものだった。


 跡取りの証っての? まあ、そんな感じ。ぐだぐだ揉めたら、印籠の如く突きつけて黙らせる予定だったけどね。同盟国の跡取り相手なら、馬鹿な貴族にも通じるかなと思ったんだ。彼らは聖獣の地位をイマイチ把握してないっぽいし。


 使わずに済んだので返そうとしたら、シンが首を横に振った。受け取らないのかよ。そう尋ねようとしたところに、ノックの音が響いた。


「待ってたよ、リアム」


 笑顔で扉を開いて受け入れる。後ろでじいやが「それは私の仕事です」とぼやいたが、今回は申し訳ないが譲れないな。開いた扉の向こうは、華やかだった。


「……っ、リアムが凄く綺麗」


 何を言ったらいいか、全部吹き飛んだ。用意したセリフなんて弱い。歯の浮くような言葉ひとつ出て来なかった。ドレス姿の彼女がただ美しくて、やっと本来の姿に戻れたリアムのはにかんだ笑顔が尊くて――オレはじわりと滲んだ涙を瞬きで誤魔化しながら、やっとの思いで声を絞り出した。

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