272.真犯人は詭弁がお好き(2)

「うーん、あの馬鹿共と会話が成り立たないと気づいた時かな。公式の謁見で、皇帝と他国の王太子の会話に割り込んだじゃん。あの時に、奴がちらっと視線を走らせた気がして。なんか……裏に糸引く奴がいるなと思った。で、リアムの秘密がバレたと知った時に疑って、最終的に裁判での対応を見て確信した」


 ウルスラが肩を竦める。そう、彼女がヒントを出した形だ。もう裁判が終わるけどいいのかとオレを促した。焦って飛び降りたけど、違和感がある。その違和感が仕事したのは、アイツらのお馬鹿すぎる会話だった。このレベルの連中が秘密を知ったら、馬鹿だからあちこちで暴露すると思う。


「蒟蒻やおならが、秘密を保持できるわけない。誰かが入れ知恵したんだ……そう考えるのが当然でしょ」


 一応指揮官候補生でしたから? 戦略やら策略に関する知識や過去事例を詰め込まれたし。異世界ラノベ読みまくった時期あるし。頭でっかちで実戦経験が伴ってないから気付くのが遅れたけどね。


「真犯人はシフェルだ!」


『真実はいつもひとつ!』


「あ、それはオレのセリフだぞ」


 横からさらった青猫の髭を両手で引っ張る。青褪める騎士を放置して、オレは容赦なく制裁を加えた。くそっ、大切な決め台詞を――。


「みっともないですよ、キヨ様」


 じいやに「もう許しておやりなさい」と諭され、仕方なく青猫から離れた。


「真犯人はどちらかといえば、私です」


 まさかのウルスラが自白?! つうか、計画立てたのはウルスラか! シフェルが乗っかって、ついでに貴族掃討作戦を決行したという……なんてシナリオだよ。頭のいい奴が考えることは、突拍子もない。


 溜め息をついて見つめる先で、ベルナルドが小さくなっている。あれは参加したのではなく、偶然知ってしまって口止めされたクチだろう。だってオレに近づいて来なかったからね。正直者で真面目なのに気を遣わせるなっての。


「ベルナルドはいいよ。巻き込まれたんだし」


「なっ! 我が君はすでにご存知でしたか」


 ご存知というか、いま察しちゃった。オレを牢から出せと抗議しに行って、会議中に邪魔して聞いちゃったパターンだと思う。運がなさそうだし。勝手に思い込んで「さすが我が君」とか言ってるので、放置。じいやがにこにこしてるけど、絶対に今の状況を楽しんでる。


「それで、オレを牢にぶち込んだ感想は?」


「ああ、そこは私の管轄外です。知らない間に収監されていて、驚きましたよ」


「おかしいな。近衛の騎士団長様が知らなかったって? 他国の第二王子で自国の皇族分家当主が投獄されたのに?」


 わざと嫌みったらしく返したら、両手をあげて降参された。肯定したら、能無しの烙印を押しやろうと思ったのに。

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