11.拘束状態での拝謁(9)

「ご無礼を」


 キヨの頭を下げさせようとするシフェルの手を、鈴のような声が遮った。


「いや、よい。異世界人に我が国の作法を押し付ける気はない」


 嫣然と微笑む子供を見つめたまま、無意識に膝をついた。これが皇帝――5つの国の中で最大の領地を統括する存在? 威圧感があるわけじゃない。子供の外見に似合わぬ、どこか浮世離れした感じはあった。


「すでに力を解放したと聞くが」


「はい、ご報告させていただいた通り、並外れた力を秘めているようです。急ぎ魔力の制御を学ばせる必要があります」


「ならば、そなたの隊に預けよう。しっかり教育するように」


 頭の上で繰り広げられる会話をよそに、オレは食い入るように皇帝の顔を見つめていた。カミサマにお願いしたオレの顔とは別格の、本当にキレイな顔だ。好みとか関係ない。


 誰が見ても美形だと言い切る皇帝は、シフェルの言葉どおり『規格外』だった。その整いすぎた人形のような外見、大きな領地を統べる能力、子供と侮られる年齢、部下を従える魅力も……。


「さて、キヨヒト――余がそなたの保護者となった。その類稀な能力で、余の治世を支えてくれ」


「は、はい」


 失礼も無礼も忘れて、凝視しながらただ頷いた。そんなオレに誰も声を上げない。後ろに並んでいる貴族らしき連中も、足元で跪いて控えるシフェルも……。


「ご苦労であった」


 下がれと命じることはしない。しかしこれで謁見が終わったのだと、さすがのオレも理解した。慌てて目を伏せて頭を下げる。


 くす……かすかに笑った気配がして上目遣いで確認するが、椅子の上の皇帝陛下は無表情だった。






 どうやって帰ってきたのか、まったく記憶がない。支度を整えた控え室で、心配そうに覗き込むシフェルが肩を揺すったところで我に返った。


「あ、謁見!」


「終わりましたよ。ちゃんとご挨拶したでしょう。覚えていますか?」

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