11.拘束状態での拝謁(8)

 ……神々しさの演出がハンパない。


「すっごい………」


 思わず漏れた感嘆に、シフェルがちらりと視線を向ける。


「……お金の無駄遣い」


 だが続いた言葉に苦笑が口元に浮かんだ。建物に感動したというより、幾らかけたんだ? の疑問が頭の中で踊る。


 皇帝や王様――陛下と呼ばれる人たちは、荘厳な建物が好きなのか。


 感覚が庶民すぎて、光熱費がかかりそう……と変な心配をしてしまう。掃除も大変そうだった。魔法があるから、別に苦労はしないのかも知れない。




 広間をシフェルはまだ歩いていた。抱っこされる状態で歩かないからはっきりしないが、かなり距離がある。


 霞んじゃいないが自転車で遊べそうな空間の先、段上にやたら背もたれの大きな椅子が2つ並んでいた。皇帝と跡取り、もしかしたら妻の席か。


 よくRPGのゲームで、魔王が座る椅子が出てくる。人の背丈の何倍もある背もたれがついた立派な椅子だ。あれによく似ていた。横向きに倒して作らないと大変だと、変な心配をしてしまう。


 よく背もたれの重さで後ろに倒れないもんだ……と以前も感心したが、実際にこの目で見られるとは思わなかった。まず、前世界でお目にかかる機会はない。


 座るかと聞かれたら、はっきりきっぱりノーサンキューだった。肩が凝りそうだ。


「降ろしますよ」


 そっと小声で告げられ、小さく頷いた。足を止めたシフェルが膝をつき、ゆっくりと絨毯に降ろしてくれる。柔らかそうだと思った絨毯は、本当に子供の足首に届きそうな厚みだった。


「陛下、異世界の子供をお連れしました」


 跪いて声をかければ、椅子の上で身じろぐ。


「ああ……シフェル、ご苦労」


 はっ!? 驚きに段上の椅子を凝視してしまう。


 響いたのは愛らしい子供の声だった。女の子だろうか、キレイな声をしている。いや、外見もすごく可愛い――美しいという表現が似合うかも。


「キヨ、膝をついてください」


 誰の前でも敬語のシフェルに、七五三じみた服の裾を引っ張られ膝をつく。ぽかんと開いた口から零れたのは「皇帝陛下、女の子じゃん」という感想だった。


「残念ながら、女ではない。お前がキヨ――異世界人か」


 固い口調で皇帝が視線を向けた。


 ぞくりとする。


 海、空、どちらとも違う蒼がきらめく瞳。日本人でも滅多に見ない見事な黒髪は烏の濡れ羽色だ。真っ白ではない象牙色の肌は、日本人なら美白の域に入るだろう。


 なによりも顔の造作が整っていた。驚くほどの美人なのだ。同性なのが惜しまれるが、目を逸らすことが出来ない。

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