238.エフェクトないと地味ぃ(3)
「ん? 獣人??」
わかってて戻したんじゃないのか。問う眼差しに首を横に振る。だって、オレの知る獣人って獣耳と尻尾があるぞ。こいつには獣耳が付いていなかった。
「おい、常識から説明してやれよ」
呆れ顔のジャックに言われ、ノアが子供相手の丁寧で隅々まで網羅した説明を始める。
「獣人はどこの国にも紛れてる少数民族だ。元はひとつの国で集まって暮らしてたそうだが、戦争で負けて散り散りになった。ここまではいいか?」
「うん」
そんなような内容を歴史の授業でやった気がする。5つの国になる前だったか。中央の国は歴史が長いから、周辺国の統廃合をきちんと記録していた。歴史書の3冊目くらいで読んだと思う。曖昧な記憶を呼び起こしながら頷いた。
「俺達みたいな孤児と一緒で、不安定で危険な仕事に就くことが多い。後ろ盾がないってのはそういうことだ。男は力のつよい奴が多くて、捕まると奴隷にされるのも珍しくない」
「なるほど」
後ろ盾になる国家が存在しないから、非道な扱われ方しても助けてくれる機関がない。異世界人も一歩間違うと同じ道を辿ったんだろうな。オレは本当に運がよかった。
複雑そうな顔でこちらを見ているレイルには、感謝してもしきれない。それはジャック達も同じだった。ちなみにアーサー爺さんは数人の奴隷に食べ物を渡している。いつの間にか行動してるとこ、嫌いじゃないぞ。親近感わくし。
「よし、キヨの疑問を受け付ける」
ノア達も経験を積んで学んでいた。オレの常識がこの世界で非常識とイコールであり、突拍子もない疑問を持ったり、ありえない勘違いをする可能性が高いこと。だから疑問受付コーナーが設置されるらしい。これは助かるぞ。
「まず、獣人の獣耳はどこ? 尻尾はどうしたの?」
「ケモミミ?」
聞いた単語を繰り返したノアの様子から、通じていないと判断した。手招きするとヒジリが素直に近づく。その黒い耳を「ちょっと失礼」と断ってから摘まんだ。
「これ、獣の耳」
「……っ、ああ! 獣の耳か。ない」
ん? 即答されたぞ。ノアの返答を飲み込んでから、今度は足元の青年に声をかける。
「獣の耳はついてない?」
「ああ」
「生まれてからずっと?」
「ああ」
少数民族だという獣人の彼の言語は、自動翻訳で普通に聞こえる。普通にオレも話しかけてるけど、ノアは首をかしげているから通じてないだろう。それは問題じゃない。猫耳や狐尻尾がない獣人って……オレが知る獣人カテゴリーじゃない。
「獣の尻尾も?」
「ない。獣化すれば獣の耳や尻尾もある」
オレが異世界で思い描く猫耳メイドが夢と散った瞬間だった。
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